自然に魅せられ、家族との時間を大切にした農業ライフ

杉田 篤信さん(すぎた あつのぶ)

出身地:東京都
現住所:立山町 移住年:2020年
職 業:農家(山菜海ファーム 代表)
山菜海ファーム(やまなみファーム) HP
山菜海ファーム Instagram 

東京で公務員をされていた杉田さんが最初に富山を訪れたのは前職の同期の方との剱岳登山。立山連峰がバーンと絵画のようで、現実のものとは思えないような綺麗さ、こんな素敵な所があるのだなと、それが富山の第一印象だったとのこと。ご夫婦共に山登りなどのアウトドアが好きで立山連峰のふもとにある立山町へ移住されました。現在は自然の中で、家族との時間を大切にしながら、「山菜海ファーム(やまなみファーム)」を運営。農薬や除草剤を使わずに年間で50品目150品種、四季折々の野菜を育て「立山の旬野菜セット」としてお客さんに直接届けています。

移住のきっかけ

東京都渋谷区出身ですが、自然がとても好きで、小学生の頃から山や海に釣りに行っていました。就職先は林野庁東北森林管理局で、自然を相手にする理想的な職業でしたが、転勤が多く、家族で落ち着いて生活することは難しいと感じていました。妻が富山県で勤務していたこともあり、長女の誕生を機に自然豊かな富山への移住を決めました。

子どもに安心できる美味しい野菜を食べてもらいたいのと、子どもに様々な体験をしてもらえそうと言う理由から農業に興味を持ちました。農業への転職を考える上で、まずは野菜を育ててみなくてはと思い立ち家庭菜園を始めたところ、想像以上に美味しい野菜ができました。それをご近所さんや家族、知り合いに食べてもらうと反応が良く、そのことをとても嬉しく感じました。こんな風に自分が作ったもので喜んでもらえる仕事がしたいとも思い農業を志すことを決めました。

移住して良かったこと

富山の自然豊かな点が良かったと思います。畑では野菜の収穫だけでなく昆虫採集、お花摘みに雪遊び等の様々な体験を子供にさせてあげられます。また富山は山も海も近くにあるので、気軽に登山や釣りにも出かけられます。

(左)家族でサツマイモの収穫・(右)トマトの収穫や積雪後の畑で雪遊びをする娘さん

農業のこと

―どのように就農を進めていきましたか?

公務員時代、最後の3年間は小さな畑を借り、YouTubeを参考にしながら家庭菜園に取り組み、失敗しては検証することを繰り返しました。

家庭菜園1年目の畑にて

移住後は1年間「とやま農業未来カレッジ」で研修を受けました。当時空き家バンクの賃貸物件で暮らしていたのですが、30aの畑とトラクターを貸していただき、大規模な家庭菜園も同時に行いました。家庭菜園では、草刈りを意識して行い、きっちり畑を管理するようにしました。その様子を見て下さっていた地元の方々から、畑付きで納屋やトラクターもある古民家を紹介してもらいました。それが現在住んでいる家です。運が良かったというか、がむしゃらにやっていたら、周りの人が助けてくださって、就農できたという感じです。地域の人に恵まれ、良くしてもらっています。

(左)農業未来カレッジの研修風景・(右)トラクター付きの納屋

住まいや暮らしのこと

―大変だったこと・苦労したことはありますか

新規での就農はその全てが大変と言っても良いですが、中でも有機農業の栽培技術や経営ノウハウを身に着けることが難しかったです。研修先となる農家さん探しも苦労しました。有機農家として一般的な野菜セット販売による営農を目指しましたが、富山県内でそれを主としている農家さんを見つけられませんでした。最終的には、とやま農業未来カレッジの農家派遣研修で金沢の農家さんの下へ研修に行き、北陸ならではの栽培や販売のコツ等について学びました。

積雪期のソリを使った収穫

―富山での有機農業や気候について。

移住前に家庭菜園をみっちりやってきたことで、比較的スムーズに就農できましたが、やはり富山ならではの難しさはあります。富山は水田率96%で、基本的に畑が少なく、元々水田だった場所で有機で野菜を栽培しようとすると、排水性が悪い場合が多く、病気が発生しやすいです。また、冬は雪が降り、春はフェーン現象による強い南風も厄介です。大風で野菜がダメージを受けたり、ビニールハウスもパイプが細いものだとぐにゃぐにゃに曲げられることがあるので、頑丈なハウスを建てた方が良い等、注意すべき点が多いです。気象的に難しく、全国的にみても、富山で野菜による有機農業を行うのは難易度が高いのではないでしょうか。

(左)大雨で水没した畑 ・ (右)春の大風で隣の家屋のトタン屋根が飛んできた

移住後、就農を考えている方へのメッセージ

まず移住を検討するにあたり、県や市町村に相談に行くことも重要ですが、自分の将来の営農スタイルに近い農家さんを見つけることができたら、事前に連絡をした上で農園を訪ね直接話を聞くというのも大切です。

またいきなり今の仕事を辞めるのではなく、焦らずにしっかりと情報収集し、計画的に移住することをお勧めします。昔と違って今は情報収集が容易にできるので、事前に幅広く情報を得ると同時に、農家となったときに栽培したい農産物を準備段階で実際に育ててみることも大事ですね。野菜農家になりたい場合、実際に家庭菜園に取り組んでみて、自分は農業に向いているのか、仕事としてやっていけそうかを判断してください。

個人的な意見ですが「農的な暮らし」の延長に農業はなく、全くの別物だと思っています。「農的な暮らし」に憧れて農家になったものの、栽培技術が未熟で野菜ができずに疲弊し、離農してしまう人も多いです。また農家は生産者である以前に経営者でもあります。ライフスタイルや理想論ばかりではなく数字にとことんこだわってほしいと思います。今の自分にかかる生活費がどれくらいで将来必要になる収入はいくらか。それを達成するために必要な売上げはいくらで経費はどれくらいかかるのか。誰にどのように販売したいのか。必要な畑の面積はいくらか。必要な農機具とその馬力数は。等々事前に考えておくこと、立てるべき目標があります。

新規就農は非常に難しく、誰でもできるものでは無いように思います。それでも自分の人生をかけて挑むだけの価値がそこにはあると思います。
覚悟ができた方は是非富山で農業にチャレンジしてみてください。

(左)立山の旬野菜セット夏・(右)旬野菜セット冬

家族や知人に美味しく安心できる野菜を食べて欲しいとの思いからから始まった山菜海ファーム。ご友人やインスタでの口コミから徐々にお客さんも増え、立山町周辺には直接宅配を行い、それ以外の地域へは宅配便による全国発送も行っています。家族との時間と自然を求め、たどりついた土地で、こだわりの美味しい野菜を育てている杉田さん。皆さんもぜひ立山町で育った旬の野菜を味わってみませんか。