一言でいうと「豊かな暮らし」
渡辺 千恵 さん(わたなべ・ちえ)
出身地:千葉県
現住所:砺波市 移住年:2016年
職業:「散居のちいさなスコーン屋さん そらもよう」オーナー
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自転車好きのご主人とワンちゃん1匹とで便利な都会を離れ、散居の地へ移住された渡辺千恵さん。ご夫妻で砺波市の地域おこし協力隊で活躍された後、それぞれ起業の道へ。憧れていたロケーションでスコーン屋を営むご様子や都会では考えられなかった豊かな田舎暮らしについてお話を伺いました。
移住を考えたきっかけ~移住の準備
千葉県出身。都内で会社勤めをされていた渡辺さんご夫婦。
お二人とも満員電車で出勤し、ご主人は帰宅すると日付が変わってしまうという日常を過ごされていたそうです。
―移住を考えたきっかけを教えてください
多忙で夫婦で語り合う時間もなく、このままでは身体を壊してしまうのでは、と心配になりました。もっとゆったりとした時間を過ごしたい、と移住=田舎暮らしを考え始めた時に、ふるさと回帰センターで開催している移住セミナーの存在を知りました。セミナーの参加を経て、田舎暮らしをイメージすることができて、気持ちが固まっていきました。
―なぜ砺波市だったのでしょうか?
散居村というこのロケーションが決め手でした。
大きな屋敷林に囲まれた大きな古民家が、緑一面の田畑の中にポツンポツンとあるこの風景にたまらなく心が惹かれました。
―移住の準備はどのようなことをされましたか?
移住をすることに2~3年悩み、移住を決めた後も砺波市に決めるまで1~2年かかりました。
その間にいろいろな移住セミナーや体験ツアーに参加して、移住の候補先に何度もコンタクトを取ったり、足を運んだりすることで、イメージと現実を擦り合わせていきました。雪の中での暮らしは経験がなかったので、富山くらし・しごと支援センターに写真を送ってもらったり、実際に自動車で富山に来て、雪道の運転もしてみました。同センターには就職の相談もしながら移住準備を進めていきました。
憧れの古民家 ~ DIY
―住居を決められたポイントを教えてください。
今の店舗兼住居である古民家は、まさしく憧れていた家そのものです。大きな剥き出しの梁や白い漆喰の壁、特にこの地方の工法である「アズマダチ」※1と「ワクノウチ工法」※2などが施されています。10部屋以上ある大きな家屋で、築100年はゆうに超えており、歴史を感じさせられる建物です。リビングと寝室と水回りは、既にリフォームされていたので日常生活に支障がないこともポイントでした。
※1_江戸時代の金沢の武家屋敷を倣った大きな造りで切妻型の屋根の妻側を正面とし東向きに建てられた家屋のこと。
※2_太い大黒柱と太い梁を金物を使用せずに繋いだ伝統的木組みのこと。
いずれも風土に適した伝統ある建築工法だが、希少な資材や技術を必要とするため、この工法を取り入れて新築することは非常に難しい。
―ご自身でリノベーションされたところはありますか?
まずは試験的に使うだけのつもりで、薪ストーブを納屋に設置したところ、あまりにも心地よいスペースになったので、DIYを楽しみながら少しずつ整えているところです。照明器具は天井の大きな梁を見せつつ、雰囲気にあったものを取り付けてみました。この納屋も心が豊かになれる時間を過ごせる場所ですね。今後もさらに手を加えていく予定です。
砺波の暮らし
―不便さを感じることはありますか?
田舎暮らしをするにあたり、ある程度の不便さも楽しもう、という覚悟で来たので今のところは特にないですね。
ごくたまに年配の方の方言が聞き取れないことがあるくらいでしょうか(笑)。
―地元の方との接し方で気を付けていらっしゃることはありますか?
スコーン屋さんの開店準備を進めていたところ、ご近所にお伝えする前に新聞に載ってしまったことがあります。
まずはご近所や地区長へお知らせした方が良かったかもしれません。まだまだ古い慣習が残っている地域なので、上手に合わせていくことも必要ですが、場合によっては時代に合わせて変化することも必要ではないかなと思っています。他にも地区の集まり(=寄り合い)は、積極的に参加するようにしています。以前の主人は人見知りするタイプでしたが、地区の班長が回ってきたり、否応なしに人と関わるようになったせいか、よくしゃべるようになった気がします。
―移住前後でご近所付き合いに違いはありますか?
移住前は忙しくてご近所付き合いもほとんどなく、生活音ひとつにもヒヤヒヤしていましたが、移住後は生活音を気にすることは全くありません。大雪の降ったある朝、雪かきをしているとご近所の方が我が家まで来て除雪機で雪をかいてくださったんです。お礼をしに行ったのですが「そんなつもりでやったのではないから・・・」と仰られて。本当にありがたくて心が温かくなりました。こちらではお隣と物理的な距離はあるものの、困ったときに力になってくれる良い心の距離感でご近所付き合いが出来ています。
―都会にはない田舎らしさを感じることはどんな時でしょうか?
ここではどんな小さな用水や川も、常に水が流れています。地元の方たちは当たり前の風景かもしれませんが、都会の水路は水流が感じられません。ここは水が豊富ということですよね。富山に来た当初、こんなにきれいな水が外で流れていることが「もったいない!」と思ってしまいました。家の裏に用水がありますが、夏になると蛍の大群が見られます。映画のワンシーンのようなとても幻想的なシーンです。風が吹くと屋敷林の葉擦れの音も気持ちよく、空気も本当に美味しいんです。そして一番感じることは時間がゆっくりと過ぎていくことです。気持ちに余裕が出来たからか、夫婦の会話が増えましたね。
―今後の計画や目標について教えてください。
紅茶アドバイザーの資格を取りました。いずれは紅茶専門店として紅茶とスコーンを楽しんでもらえるカフェを考えています。お庭が広いので、ワンちゃんも一緒に楽しめるようなドッグランを併設したオープンテラスのドッグカフェにしたいですね。今の楽しみはもっぱらスコーンづくり、特に月替わりのスコーンを考えることでしょうか。最近では自家製ベーコンにチャレンジしたり。他にも砺波市でオリーブを特産にするプロジェクトが始まっているので製品化されたらぜひ取り入れてみたいです。なるべく地元の食材を使って、私なりに砺波をアピールしていきたいですね。手探りで始めたお店ですが、今はSNSの時代なので「富山だから」「田舎だから」というデメリットはあまり感じません。経営は初心者なので無理をせずに一歩ずつ夢を追いかけていきたいです。
移住を考えている方へ
富山は山も海もあって自然が豊かなことはもちろんですが、食も豊かですね。スーパーに並ぶ魚の種類も豊富です。スーパーへは車で10分ほど。週に1回まとめ買いをしています。不便だと思われるかもしれませんが、じっくりと検討を重ねてからの移住だったので想定内です。移住を検討されている皆さんにぜひお勧めしたいのが体験ツアーや体験ハウスをどんどん活用することです。私の場合は富山県内の体験ハウスの複数箇所を利用させてもらったおかげで富山での暮らしをしっかりとイメージできて、移住計画を現実的に進めることが出来ました。事前の十分な体験を積んだことで移住後の「こんなはずじゃなかった」ということはほぼありません。移住先での自治会(町内会)の会費や役割分担等、細かいことですが、事前に知っていればなおよいと思いました。
不便ささえも楽しんで、豊かな時間に変えてしまう渡辺さん。散居村の素晴らしいロケーションの1ピースとして自分が存在することが嬉しいと仰っていたのが印象的でした。