農業は何でも生み出せる魅力がある

麓 絵里さん(ふもと・えり)

出身地:埼玉県
現住所:富山市 移住年:2018年
職業:株式会社AGUMOGU 代表取締役
(株AGUMOGU HP
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東京で会社員として忙しい日々を過ごしていた暮らしから、未経験で農業へ転身起業し、自然豊かな田舎暮らしへ。自然栽培(※1)にこだわり、旨味と甘みがギュッと凝縮された美味しいお米の栽培をしている麓絵里さんにお話を伺いました。

※1 化学肥料、有機肥料や農薬を一切使わず、自然の力を最大限 活かした栽培です。野菜本来の生命力や自然の力及び、土壌の微生物が野菜の味、香り、栄養を引き出し、健康や環境の好循環に寄与しています。
㈱AGUMOGU HPより引用

お米を栽培してみようと思ったきっかけ

会社員時代、長期出張で4か月ほど富山に滞在していたときのこと。
「たまたま地元の方からいただいたおにぎりの美味しさに、お米って甘いんだと感動したのを今でも覚えています。子供のころは偏食気味でお米がむしろ好きじゃなかった。おかずを食べるときの箸休めとしか思っていなかったくらい。(笑)」

もともと、自然栽培(※1)という栽培方法に興味があった麓さん。
滞在中親しくなった山田村の蕎麦屋のご主人から“山田村で畑が借りられるよ”という話を耳にし、その場で畑を借りることに。

「まずは小豆を植えてみようと思いたって、なんとなくやってみたんです。その後、畑の様子を見るため数か月に一度、東京から富山へ通いました。当時、自然栽培をしている人は周りにいなかったので、全て独学で本を見ながら書いてある通りにやってみたら、本当に豆ができたんですよね。そこから、“よし、じゃあ今度は米を作ってみよう。やれるかも!”とインスピレーションが湧いてきたんです。」

移住しようと思ったきっかけ

ちょうど会社で任されていた大きなプロジェクトが落ち着き、自分の中で“やりつくしたな”と感じていたんです。“じゃあ次は何をしよう。” そう考えた時に、自然栽培で米や野菜を作る、ということが一番納得できる選択でした。

畑も借りていたし、今ならこの環境でできるなと感じて。次の2020年のオリンピックまでに自分で作った米や野菜を本格的に販売することを目指したいと思い、2018年に移住してきました。

今思えばよく来たなと思います。(笑)お米作りのことを何も知らず、機械や道具を持っていないことにも何の疑問も持たなかったですし。農業って機械や道具を全て揃えて一から始めるとなると、多額の資金が必要なんですが、それも知らなかったんですよね。

ただ「お米を作りたい」っていう思いだけで、何も持たずに来てしまいましたから。

―周りの反応はどうでしたか?

応援してくれる人もいたし、中には「なかなか上手くできないよ」「肥料入れないと作物はできないよ」と言う人ももちろんいました。
ただ、田んぼをやることについて特に誰かに相談したりはせず、基本的に自分の意志で決めて動きました。“何でも3割の人が応援してくれたらそれでいい。全員が応援や賛成をしてくれる時にはすでに遅い。”と何かの本で読んだことがあります。その言葉を知っていたから反対意見を言われても、聞き流してましたね。

―住まいはどうやって見つけましたか

初めは田んぼを借りていた山田村で住まいを探していましたが、なかなか見つかりませんでした。たまたま婦中町道島地域を通りかかったとき、なぜか惹かれるものを感じて、知り合いに尋ねると、すぐに賃貸物件が見つかりました。

―地域の方たちとの繋がりはありますか

移住してきてすぐに、近所のお茶会のお誘いを受けて参加したのをきっかけに、日常的に地域の方々と繋がりがあります。
婦中町道島という地域は皆さん団結力があって、農機具をシェアしながら、助け合って農業を行っています。道島で田んぼを増やそうと思っていた時に、地域の方から「お米はどのくらい作りたいの?」と尋ねられ、その分量に見合う田んぼを貸してもらうことから始まって、田んぼの水の調整や、溝を掘るタイミングなどの助言をいただくこともあり、日頃からさりげなく手を差し伸べてくださいます。

いつも地域の皆さんから助けていただいているおかげで日々作業ができていると思います。本当にありがたいです。

富山での暮らしについて

―東京での暮らしから変わったことはありますか?

東京での食生活は、外食が中心で、自炊はほとんどしていなかったですね。
富山に移住してからは、外食よりも自炊することが多くて、魚をさばくこともできるようになったし、レパートリーが増えました。おかげさまで体の調子も良くなりましたよ。

富山のスーパーは旬の食材がしっかり揃っていて、特に鮮魚コーナーの魚の種類の多さに驚きました。山菜を自分で採って調理をしたり、手作りの梅干しを作ったり、自然の物をありがたくいただけます。特別なお店に行かなくても、身近な食材で美味しいものが食卓に揃う。それが豊かさ、贅沢だと感じます。

東京で暮らしていた時は、自然に飢えていたのか、休みの日はわざわざ山に海にとあちこち出かけていました。今はすぐそばに自然が溢れているからそれだけで満足ですし、毎朝、鳥のさえずりが目覚まし代わりで、「あー今日も自由だ!」と思って起きることに幸せを感じます。

ー富山での暮らしでマイナスに感じることはありますか

田んぼの横では畑で野菜を育てています。

雪かきは大変だなと感じます。だけど、まぁしょうがないかなって割り切っています。富山での生活でマイナスだと感じることはそのくらい。それ以上に魅力が溢れていますから、満足度100%の暮らしをしています。

ー冬の間はどう過ごされていますか?

雪の時期は田んぼも畑も雪で埋まっているため、外での農作業はお休みをしています。2019年から「農事組合法人 音川加工」の協力のもと、おもち作りをしています。事務的なことで忙しい日もあるし、地域で人手を必要とされれば手伝いに出掛けたりすることもあり、何かと動き回っていますよ。

仕事が趣味みたいな感じなので、休みが少なくても全然苦にならないんです。

今後の目標について教えてください

婦中町道島では過疎化が進んでいて、このままこの地域に人が増えなければ、田んぼを継続させていくことが難しくなるかもしれません。せっかく美味しいお米が採れる地域なので、田んぼを途絶えさせてはいけないと思っています。
同じ志を持つ仲間が少しでも増えるといいなと思っていて、仲間同士が気軽に集える場所として、ゲストハウスを作ることが、今の目標の一つですね。

実現に向けて古民家を探したのですが、なかなか思い通りの物件が見つからなくて。周囲に思いを話してみたら「自分たちでログハウスみたいなのを造ろうか。」「自分たちで建てちゃった方が古民家を探し続けるよりも早いかも。」と、地域の方々の協力のもと話を進めているところなんです。

農業と聞くとマイナスイメージ(きつい、辛い、儲からない)を持つ人が多いかもしれませんが、種から植えて何でも生み出せる魅力があると思います。
毎年、作りたい物が増えていくし、やりたいことがたくさんあるので、仕事についての満足度はまだ80%くらい。仕事満足度100%を振り切れるようにしたいですね。

現在、麓さんの田んぼでは、こしひかり、新大正もち米、古代米を栽培。
今年はさらに酒米の雄山錦の栽培が加わり、その酒米で日本酒を造る予定とのこと。

自分のやりたいことにまっすぐひたむきに取り組んでいる麓さん。
取材中、お話を伺いながら、おおらかな笑顔の中に芯の強さを感じ、こちらもたくさんのパワーをいただきました。