まちの賑わいを未来にも
桶川 高明 さん(おけがわ・たかあき)
出身地:滑川市
現住所:滑川市 移住年:2011年
職業:空間デザイナー
▶︎N+D=! PROJECT
▶︎TRIO
昔ながらの商店や民家が並ぶ通りに、大きな扉が特徴的なコワーキングスペース&シェアオフィス「TRIO」はあります。オーナーの桶川高明さんは滑川市出身。滑川の賑わいを維持、発展させることを目的としてスタートした「N+D=! PROJECT」の一環でTRIOを設立しました。
行き当たりばったりの学生時代
小中高と富山で育ち、大学進学で京都へ。大学では東洋史学を学び、卒業後、希望していた輸入雑貨のバイヤーの就職試験に失敗。
「これからどうしようと考えているうちに、自分で作ったものを買ってもらって生活していきたいと思い始めました」。
そして、デザインの専門学校へ通うことに。当初は家具のデザインを学んでいましたが、だんだん空間のデザインに興味を持ち始めます。空間に興味が出てくると、次に建物そのものに興味が移り…
「2年のあいだで思いが変わってきて、建築士になろうと。行き当たりばったりです。(笑)」
のびのび暮らせる場所で
専門学校卒業後、京都の設計事務所に就職。その後、名古屋、京都と4つの事務所を渡り歩きました。
学生のころからずっと、いずれは独立しようと考えていた桶川さん。
周囲から仕事の依頼がくるようになってきたころ、事務所からの後押しもあり2009年に独立します。
「大学と専門学校で6年、そして設計事務所でも長い間いたのが京都。京都で育てられたという感じです。
京都では人とのつながりもでき、ずっといてもいいかなと思っていました」。
しかし、独立して2年経った2011年8月、桶川さんは滑川市へUターンします。その最大の理由は、お子さんを育てる環境でした。
「京都のまちなかは狭い道を車がすごいスピードで走っているし、公園も少ない。長男はほとんど家の中で育ててしまっている状態でした。
次男が生まれるときに、もっと広い家に移ろうと。最初は京都で探していましたが、なかなかいい物件がなく…滑川なら、自然環境もいいし、土地も安いし、のびのび暮らせるんじゃないかということで、滑川で探すことにしました」。
ご両親からの情報もあり、2011年6月には土地が決まり、Uターンの翌年3月には家が建ちました。
N+D=! PROJECTのはじまり
「Uターン後、最初の2年は知人の伝で仕事をもらえていました。でもその後から少し時間ができるようになってきて、自分でなにか営業しに行かなきゃまずいと。
そのころ、地域の祭りの出店の数が子どものころの半分くらいになっているのを知って、ショックを受けました。このままどんどんまちが縮小していくことを考えたら、子どもたちが大人になった時どうなってしまうんだろうと危機感を感じて。
設計事務所としてできることを発信することと、地域への危機感とが重なったのがN+D=! PROJECT(※)を立ち上げるきっかけでした」。
それから桶川さんは、N+D=! PROJECTの企画書を作成し、企業や自治体担当者に直接提案してまわります。2015年12月、滑川市役所からの依頼で正式にプロジェクトがスタート。
TRIOは、新しいベンチャーを育て、起業を促し、滑川で新たな商売が生み出される場となることを狙いとして、2017年4月にオープンしました。
※[N=滑川のヒト、モノ、コト、クウカン][D=デザイン][!=エネルギー]を表す。「地域経済の活性化」を狙いとし、滑川の資源や技術を生かして域外から資本を稼ぎ、その資本を基に新たな商売を生み出し、域内でお金を循環させる仕組みづくりを目指す。
3者の掛け合わせ=トリオ
お話を聞きにいったのは、オープンから5ヶ月ほど経ったころ。TRIOには“濃い人”が集まってきているそうです。
「志を持った若い人たちが集まってくれていて。まだ実動してはいないけれど、ここからなにか始めようというベースのようなものはできてきていると思います」。
「挑戦者」「サポーター」「コーディネーター」の3者で新しい仕事をつくっていこうという意味をこめて、「TRIO」。
「コーディネーターは自分を含め、ここを運営しているNPO法人ナメリカワデザインのメンバーです。
今後、もっと新しいことを生み出していきたいですね。そのためには、挑戦者を増やすこともですが、もっと滑川の人たちにここの存在を知ってもらい、サポーターを増やしていかなければと思っています」。
自ら動けばチャンスは転がっている
チャレンジはしやすい環境だという桶川さん。
「富山では、競合が少ない分提案が通りやすいし、外で吸収してきた自分の知識を最大限活用できる。
富山には専門書を買えるようなところや、セミナーや講演会など知識を得る機会が都会と比べると少ないです。不便な一面ではありますが、逆手にとって考えると、そういう知識を提供する側になれるということでもあります。
素地とか余白はたくさんある。ただ、口をあけて待っているだけじゃ何もきません。自分から動いていかなきゃ、課題も見つからないし、何も始まらない土地柄だと思います」。
心地よいぬるさ
滑川市は富山市のすぐ東隣で、ベッドタウン的な位置にあります。まちの雰囲気は、田舎でもなく、都会でもない。
「人とのつながりも、密すぎず、薄すぎず。ちょうどいいぬるいつながり。そういう意味でも、自分から動いてつながりを作っていかないと、さぁーっと日々過ごせてしまうのでつまらないかも。
滑川の人たちには、つまはじきにされるようなことは今までなかったです。懐はある人たちだから、飛び込んでいけば心地よく、楽しく暮らせます」。
地域の集まりにはできるだけ参加して、溶け込んでいく努力もしているそう。
「地域に求められていることをきちんとすることも、後々自分のしたいことをするには必要だと思います」。
また、Uターン後の暮らしで工夫していることは、「日常を楽しむこと」と答えてくれた桶川さん。
「主体的に楽しむ。待っていても降ってはこないから。普段の生活の中に、いかに楽しみを見つけていくかがポイントです」。