受け継がれた場所でビジョンを形に
池田 桐英 さん(いけだ・きりえ)
出身地:東京都
現住所:滑川市 移住年:2021年
職業:古着屋 店長
▷KEIZO倉庫 HP
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池田さんは2021年9月に滑川市にオープンした「KEIZO倉庫」という古着屋さんの店長をしています。世代を越え、引き継がれる場所で、古着の魅力を発信しながら、地域に溶け込み、思い描いた時間を送る池田さんのお話を伺うことができました。
旅での出会い、富山へ
富山に移住して1年半。池田さんの出身地をうかがうと、「富山に来る前に住んでいたのは東京です。幼い頃から転勤族で、地元と言える場所がなく、生まれは三重県、その後、兵庫、千葉、シンガポール、東京へと、引越しが多かったです」とのこと。
2018年、海外をバックパッカーで旅していた時、モロッコで滑川市出身の石田さん( KEIZO倉庫オーナー)と出会いました。翌年、石田さんと東京で再会した際、「今、どういうことしたいの?」と聞かれ、「DIYをしてみたいけど、東京でなかなかできる環境がない」という話をしていたら、「ちょうど今からやるから、良かったら一緒にやろうよ!」と声を掛けられました。東京での大学生活を続けるかどうか悩みましたが、やりたいことをしたいと、大学を中退し、富山に移住することを決めました。
― それまで富山県には来たことはあったのですか?
なかったです。オーナーの地元がここで、彼の改修しようと思った倉庫がここにあったから富山に来たというのが移住のきっかけです。
この倉庫は、大工だったオーナーのお祖父さんが建てたもので、元々は作業場として使用されていたそうです。「KEIZO倉庫」の屋号はお祖父さんの敬三さんのお名前を由来としています。
— 富山に来て、地域に馴染めましたか?
人との接し方で苦労することは特にありませんでしたが、ご高齢の方の方言は聞き取るのに苦労しました。僕と同世代の方だと、そこまで強くないですが、やはり高齢の方だと方言が強いなと感じます。とはいえ、今はその言葉にさえも親しみを感じて、僕も使ってみたりしています。
― 今、住んでいる場所はこの近くですか?
いえ、従業員5人(全員移住者)でこの倉庫に住んでいます。移住当初はオーナーのご実家に居候していましたが、だんだん人が増えてきて、別の住む場所を探さなくてはいけなくなり、この倉庫を改装して住もうっていう話になりました。今はここに住んだことで、すっごく楽です。職場と家が一緒なのはこんなに楽なんだ!というくらい。
― 移住後、不便なことはありますか?
駅や買い物や飲食店に行くのに車は必要ですね。富山に来てから、車の免許を取りました。
「KEIZO倉庫」オープンまで
富山に移住当初は、建物だけで、ほかは何もない状態からのスタートでした。
お店も、最初はBarを作りたいという話をしていましたが、色々準備に時間がかかり、順番を逆にして、古着屋を先にオープンすることにしました。お店をやる上でどういう風にやるかについて、話し合った上で、古着屋がいいんじゃないかと。僕が古着好きだったこともあって。
古着屋のお客さんは20代の若い方から、上は60代の方までいらっしゃいます。
2021年の11月、念願のBar「KEIZO酒場」をオープンしてから、近所の方がよくお客さんとして来てくれるようになり、よりご近所とのつながりも強くなったと感じます。
KEIZO酒場の店内
— 富山の暮らしで工夫していることはありますか。冬は経験されましたか?
冬はひどかったですね(笑)。ぼくが来たとき、30何年ぶりかの大雪で、来るところを間違えたな!?と最初思ったのですけど(笑)。
暮らしの中で、自分で考えるきっかけが増えた気がします。特に東京だと、何でもある状態で便利といえば便利ですが、自分で考えなくても生活できてしまうというか。富山に来てから、工夫して、自然を活かしたものを作りたいという思いが出てきました。
この倉庫の内装は、ほぼ廃材等を使ってできています。
納屋に木材が余っていて、処分に困っていた方が近所にいらっしゃり、無償で譲っていただいたものをありがたく利用しています。近くの海で拾ってきた流木もあります。東京ではなかなかできない自然の使い方で、生活の所々で工夫がある気がしています。
— ご自身のやりたかったDIYにも繋がっていますね。
元々、アートや空間作りに興味があって、絵を描くのも好きです。富山の田園風景の中で、倉庫という一つの箱の中に、DIYで異空間を作ってみたいと思っていました。それができる環境が富山にはあった。地方に住みたいなとずっと思っていたので、本当に最高の場所です。この場を与えてくれていて、自由にやらせてくれる、オーナーとの出会いも大きいです。
滑川(なめりかわ)の地域のこと
僕は引越しが多かったので、特にそう思うのですが、今までは、「県外から来た」と言っても、特段珍しがられることもなく、そもそも他人に関心が無い人が多く、つながりもなかったです。
でも富山に来たとき、僕が「東京から来た」って言うだけで、滑川じゅう驚いて「なんで来たの!?絶対東京にいた方がいいでしょ」みたいなことを言うんです(笑)。そう言いながらも、「せっかく富山に来たのだから、こういうの食べた方が良いよ」とか「こういうところ行った方がいいよ」とか、すっごくおすすめしてくれて。結局、富山のいいところをバーっと紹介してくれて、すごく気にかけてくれて。
そんな「歓迎されている受け入れられ方」というのが、僕は今まで初めてで、そこが富山を好きになるきっかけになりました。とはいえ、移住当初はコロナの感染拡大時期でもあったので、「なんで東京から来たの?」みたいな否定的な部分も少しあったのですが、それでもやっぱり気にかけてくれている方が、僕からしたら、無関心でいられるよりも今までと違って、新鮮でした。コロナで心配していた方たちも2か月くらいしたら、受け入れてくれて、一緒に笑いながら飲んでるみたいなこともあったので、愛着が湧く出来事でした。最初は少し難しいかもしれませんが、一度入り込めば、温かく迎え入れてくれる気がします。
— 富山だから良かったことはありますか?
“自由にできる”ということ。
人の数も都会とは全然違うので、生活の余裕とか、心の余裕みたいなものは絶対に富山の方が良いなと思います。ゆったりした空間が好きな人は良い環境ですね。富山に来てからDIYも始められた。古着をきっかけに広がっている。ひとつひとつ深めていけたらと思っています。
今後の目標について教えてください。
この滑川の「KEIZO倉庫」で、空間を作り上げて、そこを色々なカルチャーの発信拠点にしたい。古着を一つのきっかけとして、新しいものや人、お気に入りとの出会いが生まれるような場所を作れたらいいなと思います。それが目標です。
ゆくゆくは屋台村というかコンテナを置いて、一つの村みたいな感じにしてみたい。きりがないくらいいっぱいやりたいことはあります。時間はかかると思いますけど。
これから移住を考える方へ
僕がそうだったように、富山県は一回住んでみたら、絶対離れられないくらい安心感がある。僕は地元というものが無かったのですが、ここに住んでいくうちに、富山県に親しみを感じ、戻ってきたような気持ちになりました。ぜひ一度富山県に遊びに来て下さい。ここ(倉庫)に寄っていただければ、さらに好きになると思います(笑)。そういう場所でありたいなと思っています。
「KEIZO倉庫」と「KEIZO酒場」は日本を旅する方たちの富山での立ち寄りスポットにもなっているそうです!「古着は知れば知るほど楽しいです」と語る池田さん、ぜひ皆さんも立ち寄ってみて下さい。幅広い世代の方がお買い物を楽しんでいて、センスある店内がとても印象的でした。