ものづくりで地域を元気に!

佐藤 みどり さん(さとう・みどり)

出身地:兵庫県
現住所:立山町 移住年:2014年
職業:陶芸家/地域おこし協力隊(2016年時点)
▶︎「立山Craft」HP
▶︎Instagram「立山Craft」

自分の特技を生かして地域の魅力を発掘する、地域おこし協力隊。好きなことを仕事にしながらお給料がもらえるなんて随分と楽しそうな仕事だと取材前は思っていました。しかし、<移住者の先輩たち>に話しを聞くと、「やりたい」という思いだけでは到底こなせる仕事ではないと分かってきました。地域に溶け込むコミュニケーション力に加え、自分の役割を見つけるバイタリティや継続する力など、ありとあらゆるスキルが必要な職業だとつくづく感じます。
2014年年4月から立山町地域おこし協力隊として活動している佐藤みどりさんは、就任からわずか1年で、県内外の多くの人を集めて「立山Craft 2015」※を開催。移住して間もない地でイベントを主催する“行動力”が興味深く、みどりさんの元を訪ねてみることにしました。

※全国の陶磁、漆器、ガラス、木工、金工など多種多様な作家がこだわりの作品を展示・販売する野外イベント(主催:立山Craft実行委員会

お会いすると、物腰が柔らかくとてもマイルドな印象のみどりさん。地域おこし協力隊とは別に、陶芸家というもう一つの顔をもっています。

陶芸家としての原点

幼い頃から漠然とものづくりの仕事に就きたいと考えていました。19歳のある日、知人がアメリカで購入した器に一目惚れ。

「陶芸の基礎知識も経験も全くなかったのですが、こんな器が作れる人になりたいと強く思い、その作家さんを訪ねることにしました。出迎えてくれたのは身長198センチの大きな作家さん。英語もろくに話せなかったのに工房に通わせてくださり、3ヶ月の間お世話になりました。ろくろを回したり釉掛けをしたり、窯で焼かせてもらったりと陶芸の流れを体験させてもらい、彼が出店していた現地のアートショーにも連れていってもらいました。アートショーは日本で言う『クラフトフェア』のことです」

19歳のみどりさんが憧れた器

陶芸に費やした20代

一目惚れした器の背景を知ることができ、ちょっとした達成感を得て帰国したみどりさん。帰国後は、作陶したいという思いを秘めながら、地元神戸の陶器屋さんでアルバイトを始めます。そこで、普段づかいのお茶碗や引き出物に使われる器、こだわりある逸品や量産されている器など日本の陶器にはあらゆる種類の陶器があることを知ります。

「用途も焼き方の種類もさまざま。販売員として働くなかで陶芸をきちんと勉強したい、自分で作れるようになりたいと、翌年神戸を離れ、愛知瀬戸市の窯業学校に入りました。約4年間学んだ後は、瀬戸の工房で作陶しながら、個展を開いたり、クラフトフェアに参加したりと作家活動をしていました」

瀬戸に移り住んでから8年が経ち、陶芸一筋で進んできたみどりさんの心境に変化があらわれます。当時、同郷のご主人とは埼玉と愛知の遠距離恋愛をしており、出会って10年が経とうとしていました。10年という節目とご主人が頑張って働く姿に、結婚し埼玉で一緒に暮らすことを決意。埼玉でも作陶できる環境を作り、製作を続ける事にします。

移住を考えはじめたきっかけは、東日本大震災でした。みどりさんとご主人は、小学校6年生の時に地元神戸で阪神・淡路大震災を経験していたこともあり、「今すぐには厳しくても、将来的には田舎で暮らそう」と漠然と考え始めます。そして、2013年、旅行がてら移住地探しをと本サイトで知った「南砺市移住体験ツアー」に参加しました。

「南砺市からの帰途、高速を運転しながら目にした、スカッと晴れた青空に輝く立山連峰の姿がとても印象的でした。えらい魅力的な県があるぞ!と主人と二人大興奮。数ヶ月後、再び立山町・上市町の移住体験ツアーに参加しました」。

役場からの1本の電話

立山町の移住体験ツアーから戻った後、お子さんを授かり移住計画も一旦お休みしていたところ、立山町役場から1本の電話が入ります。

「越中瀬戸焼で有名な立山町新瀬戸に、地域おこし協力隊としていらっしゃいませんか?」

立山町の新瀬戸地区は、古くから伝わる「越中瀬戸焼」が有名な場所。最盛期の江戸時代以降、時代の流れとともに多くの窯は廃窯しましたが、もう一度「越中瀬戸焼」を知ってもらおうと、最近では、4軒の窯元の5人の陶工が「かなくれ会」を結成し、魅力発信に力を注いでいます。

生まれて間もないお子さんを抱え、考える猶予は2ヶ月ほど。ご主人が転職を考えていた機会と重なり、関東に残るか、関西に帰るか、それとも富山という選択をするのか…人生の大きな決断をすることになります。たくさんの不安がありましたが、「富山という地を選ぶことが、一番笑顔で暮らせる選択になる」という感覚を信じて移住を決意します。

ピンチが生んだチャンス

さまざまな思いを抱えて移住生活をスタートさせたみどりさんでしたが、“地域おこし協力隊”という職業の難しさに悩む日々が続きます。

「地域の方は作陶をして欲しい訳ではなく、地域の活性化をして欲しい。陶芸一筋できた私にできる地域活性とは一体なんだろう…。一過性で終わらない“地域おこし”ってなんだろう…」
みどりさんが導き出した答えは、今までやってきた事とこれからやりたい事がかけ離れていない範囲のなかで行動を起こすこと。糸口が見つかった事で自分の道を切り開いていきます。

「立山町に来てから感じたことは、若者が集う場所があまりないという事。青年団も無くなってしまい、土地の若者に出会う機会が本当に少ない印象がありました。そこで、陶芸で出展者側として参加していたクラフトフェアのことを思い出しました。全国でこれほど盛んに行われているクラフトフェアですが、富山は真剣にものづくりに取り組む人がたくさんいる割に、富山と言えばココ!と思い浮かぶクラフトフェアを知りませんでした。全国の作家の作品を目にする機会が少ないこの土地で、質の高い出展者さんを集めることが出来たなら、富山のものづくりと触れ合える場になったなら、富山を代表するクラフトフェアになるのではないかと。地元の人の交流の場にも繋がると考えました」

協力者を求めて実行委員会を立ち上げ、出展者を募り、ロゴやホームページの作成、facebookの更新など、半年間の中で出来る限りの力と気持ちを注ぎました。

「移住者の先輩のご協力やこのイベントを作っていく段階で出会いが生まれ、協力してくれる仲間が増えました。出店の依頼に伺ったり、クラフト作家さん達が出展したいな、楽しそうだなと感じてもらえる雰囲気づくりを心がけました」

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クラフトフェア当日には、県内だけでなく、石川や岐阜などの近隣県をはじめ、熊本、和歌山、静岡など全国から50店舗。フードや地域のブースも含めて65店舗の出店があり、大盛況。初開催でありながら2日間で8000人の来場者数となりました。

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「立山Craft」が生んだもの

昨年の開催は多くの媒体に取り上げられ、口コミの評判も良く、立山町に新たな可能性と風を吹き込みました。2016年5月には、2回目となる「立山Craft2016」が開催されます。今年も県内外問わず多くのクラフト作家さんやフード関連の方々が参加予定で、より多くの方に楽しんでいただけるよう、音楽ライブやTシャツ展、遊びのコーナーも計画されています。

壁にぶつかったからこそ、生まれた「立山Craft」。みどりさんは今、何を思っているのでしょうか。
「最初の1年が大変だった以上に、『立山Craft』が生んでくれた“つながり”は、自分にとってとても大きなものでした。人とのつながりはもちろんですが、土地への愛着にも大きな変化がありました。移住した当初はこの土地で本当にやっていけるのだろうかと悩んでばかりいましたが、今はここに来て良かったと心から思います。任期後に暮らしていくお家も決まりました」

新しいお家でかくれんぼ♪
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壁塗りを家族で。リフォームは出来る限り自分たちの力で
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新しい家からは立山連峰が一望できる。息子ちゃんもお気に入り。

見晴らしがよく、工房にできる納屋付き&お庭付きという最高の条件の物件と出会い、購入を決断。お休みしていた作陶活動も少しづつスタートさせる予定です。

「地域おこし協力隊の任期後も自分が関わる中で『立山Craft』を10年続けていきたいと思っています。子育てと作陶活動、立山Craftと、今の自分にはどれもとても大事な要素。この土地では越中瀬戸焼だけでなく、和紙や漆、金工などの作家さんが新たに制作を始めました。ものづくりでこの地域を元気にしたい!そんな想いの一端を自分も担う事が出来たなら、地域に自分を必要と感じてくださる方がいらっしゃるのならこんな嬉しい事はありません。それだけで十分移住して良かったと思えます」と、最後まで柔らかい笑顔とともにお話してくださいました。