氷見を“ビールがある街”に

山本 悠貴 さん(やまもと・ゆうき)

出身地:氷見市
現住所:氷見市 移住年:2017年
職業:Beer Cafe ブルーミン代表
▶︎Beer Cafe ブルーミン

2018年4月、氷見市にオープンしたブルーワリーパブ「Beer Cafe ブルーミン」。海から程近い漁師まちの一角にあります。オーナーは氷見市出身の山本悠貴さん。大学進学で東京に行き、就職、転職、結婚を経て、2017年8月氷見市に戻ってきました。

いつか富山に戻って来られたら

「東京に進学したのは、単に東京に行ってみたかったから。いつかは富山に戻って来られたらいいなと思っていました」。

大学卒業後も東京に残り続けた山本さん。その“いつか”はお子さんが誕生した時に訪れます。

「東京では子育ての悪条件が重なっていて。ここで子育てするのはしんどいなと、移住を考え始めました」。

出身の富山県も移住先の候補の1つ。情報収集のため、2017年7月に東京で開催された富山県の移住フェアに来場しました。

「あの時、氷見市の担当の方にがっしり掴まえられて(笑)。そこからどんどん氷見市に戻る方向に話が進んでいきました」。

山本さんが参加した「とやま移住・転職フェア 暮らす働く富山まるごと相談会」

なんとその翌月の2017年8月には氷見市のご実家へ移ってくることに。

「子育ての面では、市の支援制度も充実しているし、なにかあったときに頼れる両親が近くにいるのはとても安心です。

移ってきた当初はこれからの仕事をどうするかまだ悩んでいる時期がありました。今のお店をオープンするまでは無収入だったので、本当に両親の理解と協力があってこそだと思っています」。

移住後の生活をそう振り返る山本さん。氷見市に移ってきてからお店をオープンするに至るまでには、どんな経緯があったのでしょうか。

衝撃的なクラフトビールとの出会い

山本さんが新卒で入ったのは東京にあるIT系の会社でした。そこでエンジニアの仕事をしていた山本さんは、24歳のころ衝撃的な出会いを果たします。

「ビアバーで果物のビールを飲んだんです。それまでビールには固定概念がありました。苦くて、黄色くて、たくさん飲めるのがかっこいいとか。でも、色も香りも様々で。そういうビールに出会ってビビッときました。なんでもありで面白いなって。

ビールは工場で作るイメージだったのが、それをつくっている人たちがいるっていうのを知って。そんな仕事うらやましいなと。好きが転じて、ビール業界に転職しました」。

ビールの原料となる麦。ビールの色や風味を左右する

そんな経緯で、ブルーワリーパブ(※)を運営する会社に転職し、ビールの製造を勉強する日々。

「東京では店舗のマネージャーも勤めていましたが、移住後の仕事については、製造じゃなくても何かしらビールに関係のある仕事ができればいいかな、ぐらいに思っていました」。

※ビールを醸造し、その場で提供する店舗形態。

少しずつクリアになってきた開業への道筋

「でも、もともと一番やりたかったのは自分のお店を持つこと。やりたいけどできるのかな、と不安でした。

移住相談を続けていく中で、実はこんなことをやりたいんですというのを周りに言っていたら、少しずつ道筋がクリアになってきて。もしかしたらできるかな、と思えてきました」。

そんなとき、氷見市の移住相談窓口「氷見市IJU応援センター『みらいエンジン』」から、店舗にぴったりな空き家を紹介されます。

「いい場所もあるし、氷見市の創業支援事業があったのも起業してしまおうと思った大きな要因のひとつ。氷見でもやれるよと色々な方にそそのかされて(笑)、お店を開くことに決めました」。

新しいことを始めようとするとき、
すぐに様々な方面から声をかけてもらえるというのは小さなコミュニティの田舎ならでは。

海辺のブルーワリーパブ「Beer Cafe ブルーミン」

「Beer Cafe ブルーミン」は2018年4月にオープン。

氷見に帰ってきてから1年足らずで空き家のリノベーションをしてお店オープンまでこぎつけました。

「店の前を流れる、湊川沿いの桜がほころぶ時期には醸造を開始できるようにスケジュールを組みました。

業者さんに入ってもらったり、自分たちでDIYした部分もあります」。

3階建ての空き家をリノベーション

「オープンして2ヶ月ちょっと。当初はビール1種類しかありませんでしたが、今では製造をがんばって、常時3~4種類は置けるようになってきました。

また、イベントを開催したり、野外出店を重ねることによって、大変ですが、それをきっかけに少しずつ整ってくる。そうやって色々なことができるようになってきました」。

仕込み作業に1日、酵母が発酵する期間が7日ほど、さらに寝かせる期間が3週間。麦の状態からビールが出来上がるまでにはおよそ1ヶ月かかるそう。

ビールの注ぎ口の裏側がすぐ冷蔵庫へとつながっている。常に冷えたビールが提供できる山本さんのこだわりポイントです。
お店で提供されるお食事は、山本さんが東京のブルーワリーパブで考案したレシピをベースに。

クラフトビール好きの方が県外から来てくれることもあります。

「実は、最寄りの氷見駅はアクセスがあまりよくないです。それでもビール好きの方たちは、電車で来てくれています。

最初は周りのみんなから、交通の便が悪いところで店を開くなんてやめたほうがいいと言われたし、実際都会向けのビジネスだと思います」。

現状ではお店で作りたてのものを味わってもらうというスタイルをとっていますが、より多くの方にビールを楽しんでもらうために、瓶詰めビールの販売や県内の飲食店に出荷することも視野に入れているそう。

「この車社会でどう売り出していくかというのが課題ですね。模索しています」。

“ビールがある街”へ

まだオープンして間もないお店で、山本さんはどんな未来を思い描いているのでしょうか。

「短期的なところでいったら、ビールの種類を増やしていきたい。ビールを注ぐタップが7つあるので、7種類は常時あるようにしたいです。

長期的な、大きなビジョンとしては、ビール人口を増やしたい。

その人が初めて飲むビールがなにか、というのが大事だと思っています。ただ苦いビールを飲んで嫌いになってしまう人もいるだろうし。

ビールを飲めないという人が、これなら飲める!と言ってくれたらうれしい。そういう方にも親しみを持ってもらえるように、地元のフルーツを使ったり、かわいい色のビールを作ってみたり、そういう要素も組み込んでいきたいです。

あとは、氷見が好きなので、色んな文化がある氷見の側面の1つとして、“ビールがある街”というのができたらいいなと思っています」。