2015年、「住みよさランキング」で8位になった砺波市。民間経済誌「東洋経済新報社」が実施する全国約800の都市を対象にした調査で、安心度、利便度、住居水準充実度で高い評価を得ており、トップ10入りを果たしました。そんな注目度の高い砺波市ですが、地域の方はどんな風に感じているのでしょうか。砺波市職員の金子幸弘さんと地域おこし協力隊の野水淳一さん(千葉県より移住)を訪ねました。
問題をひとくくりにしないことの大切さ
砺波平野には屋敷林に囲まれた住居が散在する散居村が点在し、日本の原風景ともいえる景色が広がっています。お二人の職場である「となみ散居村ミュージアム」は、散居景観の保全や空き家情報バンクの管理、砺波地方に伝わる伝統文化を全国発信するなど、地域の賑わいを創出するために平成18年につくられました。
砺波平野の散居村。季節、時間によってさまざまな表情が楽しめる
となみ散居村ミュージアムの情報館
国よりも10年余り早く人口減少が始まっているという富山県。各市町村がさまざまな取り組みを行い、移住・定住促進事業においても積極的な活動を行っています。砺波市でも空き家対策などに力を入れていますが、“人口増のため”だけに行っているのではないと金子さんは言います。
「砺波市は周辺市町村と比べて人口増加率が高いんです。砺波市が考えなければいけないのは、人口減少に歯止めをかけるということよりも、散居村という歴史的・文化的に貴重な資産をいかに守っていくかです。移住・定住促進事業を一概に進めていくのではなく、それぞれの地域の問題点をしっかりと見極めなければいけないと考えています」
高度経済成長期以降、生活様式の変化や大規模な開発などで散居村の景観が大きく変わってきているようです。現在、砺波市の空き家戸数は360戸ほど。中には築100年以上のアズマダチなど伝統的家屋も登録されています。まちなかの家は、空き家になってしまったら処分するという選択肢をとることができますが、散居村ではそうはいきません。空き家を壊すことは、水田に散在する屋敷林と民家の見事な調和を壊すことにつながるのです。
笑いを交えながら楽しくお話をしてくださった金子さん(左)と野水さん(右)
2015年、砺波市は市としてはじめて地域おこし協力隊を公募しました。そこで採用されたのが、生命保険会社の営業や林業、コンビニ店長など多種多様な職種を経験してこられた野水淳一さんです。同年9月より、砺波市空き家バンク情報の管理や空き家の利活用事業の強化などに携わっています。
「訪れる前はまちなかの空き家対策をイメージしていましたが、地域おこし協力隊の面接時に「佐々木邸」という100年以上の歴史があり、『切妻造り平入り(=マエナガレ様式)』の雪国に適した伝統的家屋を見せてもらいました。砺波市での空き家対策には、こういう古民家が含まれてくるのだと衝撃を受けたのと同時に、残すべき、住み継いでいくべき家屋だと実感しました」と野水さん。
受け入れ地域が持つべき姿勢とは
移住・定住促進事業に対しては、“ちょっと強気な砺波市”がキーワードだと二人は言います。
「移住者ではなく“砺波人”が増えてほしいと考えています。ふわっとした感覚で移住に興味があるのではなく、砺波市の歴史・伝統を気に入ってくれて、まちを一緒に守っていこうという意志のある人に来ていただきたいんです。人口を増やすのではなく、“砺波人”を増やしていこうと常に意識しています」
「地方移住に興味がある人はとにかく来てください!」というスタンスではなく、地域の未来を確実に築いていくためには、受け入れる側がしっかりと将来像を描き、意見を持っていることが大事だそう。
地域おこし協力隊の野水さんの任期は3年間。空き家の利活用事業に関わるなかで、3年後にNPO法人を立ち上げ、空き家を利用したゲストハウスを開きたいという夢も生まれました。
野水さんのように、地域目線と移住者目線の両方から、俯瞰的にまちを眺めることができる人はとても貴重です。人口増が目的になるのではなく、地域の未来に必要な力を正しく理解し、まちづくりを行っていくことが、いかに大事かをお二人に教えていただきました。