長野県出身の善田洋一郎さんは、関西の大学を経て、愛知県でNPO法人に勤務。
東京都出身の奈緒さんは、大学を卒業後、岐阜県の加子母村で役場に勤めていました。
そんなおふたりは、名古屋で開かれた環境フェアで出会い、2011年11月に結婚。
翌年11月に、奈緒さんの祖父母が暮らした家がある富山県朝日町に“孫ターン”しました。
現在、洋一郎さんは林業に従事し、同時に漁師になる夢も進行中。
奈緒さんは2人のお子さんの育児に奮闘しています。

 

16善田 洋一郎さん・奈緒さんご夫妻

 

—富山へ移住するまでのいきさつを教えてください。

(洋一郎さん)
大学を出てから、名古屋市内で環境系のNPO法人に勤めていました。
もともと興味のある分野でしたが、仕事を続けるうちに段々と違和感を持つようになりました。
「子どもたちのために地球を守ろう」と、自分とはかけ離れたところの話を一生懸命にしていることや、自分は都会暮らしで環境にたくさん負荷をかけて生活していることに、段々とむなしさを感じるようになりました。
それで名古屋を離れ、豊田市の山間にある旭地区で古民家を借り、田舎暮らしをはじめました。
仕事も辞めて、何も決めずに行ったら、ご近所さんがすごく心配してくれましたね。
野菜を分けてもらったり、林業の仕事も紹介してもらいました。
結局、旭地区には丸一年暮らしました。
すごく気に入っていましたが、結婚したら富山に住むと決めていたので、それ以上お世話になるのが心苦しくなり…。
結婚前に僕だけ先に富山へ移住しました。
仕事はせっかく教えてもらったので、林業を続けることに。
インターネットで見つけた今の職場へ問い合わせたら、たまたまタイミングが良かったのか、即採用!
富山に移って最初の家は、職場に近い魚津市内でアパートを借りました。

 

—朝日町での定住を決めたのはなぜですか?

(洋一郎さん)
いちばんの理由は、善田家を継ぐことです。
この家は、奥さんの父方の祖父母が暮らした家で、しばらく空き家状態になっていました。
それまで僕は愛知、奥さんは岐阜で、ふたりとも全然ゆかりの無い地域に暮らしていました。
田舎暮らしはどこでもできるが、善田家は僕らが継がないと無くなってしまう。
自分たちの本来行くべき場所があるのなら、そこを継いだ方がいいだろうと、結婚前にふたりで相談して決めました。
もうひとつの理由は、「できるだけ自分たちの手で生活を支えたい」と思ったからです。
たとえば、災害でいろんなものをシャットアウトされても生きていけるようになりたい。
東日本大震災があってから、特にそう思うようになりました。
都会にいたときは、食糧も、エネルギーも、すべてお金と交換する暮らしで、どこかむなしく感じていました。
自給自足をしたいわけではないけど、海で魚を釣ってくるとか、薪で火を焚くとか、
自分の体を使って生活の一部でも支えられたら。
そういう強みがあると、自信になると思うんです。
東日本の震災後はとくに、この話に共感してくれる都会の友人が増えたと感じています。

 

—富山の暮らしはいかがですか?

(洋一郎さん)
朝日町のいいところは、何といっても地理的条件!
海にも山にも近いので、両方のいいところを享受できます。
釣り好きなので、朝日町に移ってから毎週のように海釣りに出ています。
愛知で釣りに行くときは、車で片道2〜3時間かかりました。今は車で10分ぐらい。
また、知人から乗らなくなった船を譲ってもらい、今は船舶免許を取りに行っています。
その船に乗って漁に出るのが夢。林業をしながら漁ができるなんて、我ながら驚いています。

(奈緒さん)
朝日町は、田舎過ぎないところが暮らしやすいです。
ほどよく田舎で、ほどよくマチ。
移ったばかりのころ「こんな田舎によく来たね」と言われましたが、ふたりとも以前住んでいたところがもっと田舎だったので、「いえいえ、マチです」と答えます。
スーパーや総合病院、高速道路のICも近くにあります。
北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅までも車ですぐですから、長野と東京、両方の実家により行き来しやすくなりました。

(洋一郎さん)
愛知での田舎暮らしは、山に分断されていて隣の家が見えませんでした。
スーパーには20分くらい真っ暗な峠を下って行きました。
朝日町はわりと平地なので、隔離された感覚がなく、“心理的バリアフリー”といった感じです。
冬の天候は「雪が降るし、どんよりと曇っていてイヤだ」という人もいますが、雪が降っても凍ることは少ないですし、真冬の晴れ間はめちゃくちゃきれいでビックリします。
僕の場合、自分で選んで富山に移ってきたので、弱点もひっくるめて魅力に思えるのかもしれません。

 

16善田 洋一郎さん・奈緒さんご夫妻03

 

—子育ての面で、富山の環境はいかがですか?

(奈緒さん)
富山はどこでも車で出かけられるのがいいですね。
東京だと、どこへ行くにも渋滞したり、駐車場が無かったりします。
ベビーカーを持ってバスや電車に乗るのは大変ですし、自転車も前と後ろに子どもを乗せているお母さんを見かけると、本当に大変だなあと思います。
今は育児に専念しているので、平日はよく子どもと車で出かけます。
最近はお隣の入善町にある『杉沢の沢スギ』がお気に入り。
晴れた日はお弁当を持って出かけます。
家の中にばかりいると、子どもたちもストレスが溜まってしまいますから。
外に出ると、上の子は野原や海岸をかけまわっています。
“つくりもの”ではない、“本物”の自然にふれることは、子どもたちにとって大切なことだと思います。
ただ、ご近所に同じ年ぐらいの友達が少ないのが、少し可哀そうな気がします。
公園にもあまり人がいなくて、待ち合わせの約束をしなければ友達に会えません。
反面、子どもが少ない分、行政のサービスは手厚いです。
また、ご近所の方も気にかけてくださり、可愛がってくださるので、有難いですね。

 

—今後の夢や目標があれば聞かせてください。

(洋一郎さん)
夢はたくさんあります!
たとえば、自分で家を建てること。
僕も奥さんもわりとあちこちを転々としてきたので、各地に友達がいます。
そういう友達を呼んでワイワイできる家なのか、農家民宿やゲストハウスなのか、どういう形かまだ分かりませんが。
そう言いながら、まったく別のことをはじめているかもしれないです。
何しろここに来るまで、漁師になろうとはこれっぽっちも思っていませんでしたから。
ここは海も山も近くて、田んぼも畑もある。思えば、何でもできるところなんです。

 

16善田 洋一郎さん・奈緒さんご夫妻02

 

—移住を考えている方へのアドバイスがあればお願いします。

(洋一郎さん)
今はインターネットが発達し、直接会う必要性が少なくなっています。
だから、会って話すことが、かえって新鮮。
電話やメールで大抵のことは済むかもしれませんが、直接行って、直接会って、話をすることは大事ですよね。
移住を考えているなら尚のこと。
実際に身体を動かして“行く”というエネルギーは、すごく価値があると思います。

(奈緒さん)
景色ひとつも、人それぞれ、合う・合わないがあるので、直接見ることが大事だと思います。
たとえば、山が間近にあるのが落ち着くという人もいれば、
山が離れていて空が開けているのが安らぐという人もいます。
実際にその場所に立って、感じてみること。
景色って、毎日毎日、見るものなので、けっこう大事だと思います。