ともに建築家の齋田 武亨さん・本瀬 あゆみさんご夫妻は隈研吾建築都市設計事務所の元同僚でした。
2011年、本瀬さんが東京で独立。2015年に齋田さんが独立。ご夫妻で「本瀬齋田建築設計事務所」を開設しました。
齋田さんは富山市、本瀬さんは東京に拠点を置き、仕事の状況に応じて両拠点を行き来しています。
富山オフィスがあるのは、富山市中心部の中央通り商店街にあるシェアスペース「マチノス」。呉服屋さんのビルで、以前は社員食堂だった場所を造園士さんとシェアしています。入り口のドアにはその名残が。
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%e9%bd%8b%e7%94%b0%e3%81%95%e3%82%93%e6%9c%ac%e7%80%ac%e3%81%95%e3%82%9307右側は造園士さんのオフィス

富山との縁は「TOYAMAキラリ」

(齋田さん)
隈研吾さんが中心になって設計した複合ビル「TOYAMAキラリ」の設計監理のため、2013年から富山に住み始めました。
「TOYAMAキラリ」は富山市のガラス美術館と図書館が入居するビルで、同じ階にある両施設が、2階から6階の斜めにズレる吹抜を介して混ざり合います。通常は、異なる施設が同じ階にあるだけでも珍しいこと。最初の設計では階ごとに施設が別れていましたが、双方の理解があり、今の形が実現できました。

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富山に来た当初から「TOYAMAキラリ」が完成したら既に独立していた妻と事務所を開くつもりでした。でも、どこに拠点を置くかは未定でした。
2年半が過ぎて富山で色々な人との出会いや魅力的な話があり、富山に残ってみようと思いました。

富山の人は人見知りと聞いていましたが、私の周りの人はオープンな人が多いです。人と人とのネットワークが広がりやすいと感じています。「これがつくりたい」「こんなことをしたい」と声に出しやすく、メンバーの顔がよく見えます。良いものをつくろうと言う思いが、みんなで共有されやすいと感じています。

 

(本瀬さん)
私は近所での仕事がしたいと思っていますが、東京ではなかなか難しいです。東京は人が多すぎるし、ビジネスと生活が区切られているからかもしれません。
事務所を作る前から定期的に富山に滞在していて、富山もいいなと思いました。ここ1~2ヶ月は仕事のため、ほとんど富山に滞在しています。

小さなまちだから広がる仕事の幅

(齋田さん)
建築家は、家や店舗づくりの構想の提案をしたり、大工さんが仕事できるよう設計図を描くのが主な仕事です。ところが富山で設計事務所を開いてからは、通常はしない仕事もするようになりました。

事務所でノコギリを使ったり2日間徹夜して木を組み立てたり…建築家から大工さん的ポジションまで一連の工程に携わることがたびたび。グランドプラザや富山駅前に企画した「サンカクジム」も、組立ては業者さんに依頼するのが通常ですが、自分たちで組立て・解体も行いました。

富山駅構内でも空間のディスプレイをしました。まだ富山での実績があまりないにも関わらず任せてもらえたのは小さな自治体だからこそ。東京では最寄り駅にディスプレイできる機会などそうないと思います。

また、「マチノス」のビルにはウェディングなど「ハレの日」をプロデュースする会社があります。これまで培った空間デザインの力を活かし、こちらの会社のイベントのディスプレイを手伝う機会もありました。

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富山の暮らしで身近な雪吊りや立山連峰の景色を彷彿させる「サンカクジム」(上:富山駅前 下:グランドプラザ)

日常の「まちの風景」をつくる

(齋田さん)
中央通りのアーケード街は、屋根付きの歩道として、重要な生活の一部です。
私は普段、自転車で移動するので屋根があることが大変助かっています。また、散歩するおじいちゃんやおばあちゃん、ジョギングしている人もいます。もう少し、日常に通りを利用する人が増えたらいいなと考えています。
散歩途中に休憩するベンチを置くなど、大きなものを作らなくても小さなことから、まちづくりや場所づくりは始めることができます。中央通りアーケード街は公園のような場所として活きる可能性を秘めています。

50年くらい前の建築家はまちづくりに多く関わっていましたが、それ以降の建築家はあまり関われてきませんでした。私たちの世代でも、まちづくりに関われていることをうれしく思います。

 

(本瀬さん)
いたち川沿いにも関心があります。緑が多く整備されていますが、人が多いのは延命地蔵の水汲み場が中心。それにあわせて周辺も楽しめるようにできればと思っています。
建築設計の仕事も良いですが、まちに関わることをしたいです。

 

富山の「まち暮らし」

(齋田さん)
東京と二拠点のため、北陸新幹線をよく利用します。東京との距離感は感じません。自宅からすぐ近くの中央通りアーケード街を通って路面電車に乗り、富山駅へ。駅構内で新幹線に乗り換えて東京へ。天気が悪い日でも傘をささずに東京まで行くことができます。

富山市のまちなかには同世代のお子さんがいるファミリーが多く、子育て拠点やママ友のコミュニティなど、子育てのメリットは多いと感じます。

富山県は海も山も雪も、滝もあります。まち暮らしでも大自然まで車で30分~1時間。そのギャップが魅力的です。

▷ 本瀬齋田建築設計事務所

 

 


齋田さん・本瀬さんのお気に入り

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ガラスの器
おふたりでデザインしたもの。美しい曲面の凹凸は、海や波のようでもあり、山脈のようにも見える。
おつきあいのあるガラス作家さんの協力で形に。
器に石を乗せたのは、シェアオフィスしている造園士さん。
色んな人が関わると、新しいものが生まれる。

移住のアドバイス

(齋田さん)
2つの拠点があることで、完全移住より気軽な感じで移住ができていると思います。
今は東京の住居兼事務所、富山の住居と事務所の3ヶ所を借りていますが、東京で家と事務所を借りていたときと家賃の負担はあまり変わりません。
場所を選ばずに仕事ができる業種の方にとって、地方暮らしは選択肢のひとつだと思います。