大学時代から旅が好きで各地を旅行していた中台雅子さん。観光に携わりたいと、卒業後は東京で旅行業の仕事に就き、南米ペルーの旅行会社に勤めた経験もお持ちです。
海外から日本へ 視点の変化
学生時代から「海外」への興味や憧れが強く、旅行業の仕事に就き、海外で働く機会も得ました。
帰国後、東京で海外旅行を専門に扱う旅行会社に勤めていましたが、次第に自分の中の関心が海外より「日本」へ向くように…。
休暇を利用して国内を旅する機会が増えると、日本の良さを改めて知るようになり、「いつか、日本を訪れる海外の人に日本らしいところを紹介し、体験の機会を提供することに関わりたい」と思い始め、視点が海外から日本へ変化していきました。
南砺市との出会い
2011年3月の東日本大震災を機に、生活に何が必要かを考え直す人が増えたと思います。私も「自給自足できない東京は何かあったときに怖い」と思い、移住を考え始めました。
移住するなら自然豊かな住環境で観光の仕事を続けられる場所をと、休日は地方を旅しつつ移住先を探しました。移住関連のフェアやイベントにも参加し、情報を集めていました。
2014年秋に富山県を訪ね、雄大な立山連峰を始めとする山と海の豊かな自然、色濃い日本の伝統文化が息づく地域性に魅せられました。
旅を終えた後、他の地域より富山県の印象が強く残り、求人情報などアンテナを張って調べるようになりました。縁あって、南砺市観光協会の求人を知り、応募。2015年8月から勤務しています。
色々な理由がありますが、移住の決め手となった理由の一つに、南砺市が「呉西」(※)で暮らしや食文化が関西圏に近い印象を持ったこと。これは、富山県に実際に足を運んだことで気づいたことです。
※富山県は、県のほぼ中央を縦に走る呉羽丘陵を境に「呉東」と「呉西」の地域に分けられ、「呉東」は関東、「呉西」は関西に近い文化圏です。
南砺市のライフスタイルを体感「なん旅」
南砺市の観光プロモーション事業や誘客推進事業に携わり、首都圏など県外からの誘客を進める一方、お客様が南砺でより心地よく過ごしていただけるように、市内観光事業者の方々と連携し受け入れ環境整備にも取り組んでいます。
旅行業務では「なん旅」を担当。南砺市に足を運んで下さるお客様に、地域の文化・歴史・自然・暮らし・人々に触れ、南砺市の良さを体感いただく着地型ツアーを企画・実施しています。「なん旅」は地元発だからこその地域密着型ツアー。地域で活動する方やお店の方にお話いただいたり、案内いただくなど、地元のみなさんの協力なしでは作れないツアーです。
南砺市のさまざまな歴史や文化、自然を体感できる「なん旅」のパンフレット
世界遺産だけではない南砺市の魅力にも光を
南砺市はインバウンドにも力を入れています。世界文化遺産の五箇山合掌造り集落には海外から多くのお客様が訪れます。昨今、旅行者が急増している東南アジアからの誘客推進にも力を入れ、他自治体と連携し事務所を設けたシンガポールを拠点に、情報収集や現地のニーズを汲み取りながらモデルコースなどを作りPRを行っています。
今の課題のひとつは、お客様がJR城端(じょうはな)駅(五箇山合掌造り集落へ向かう「世界遺産バス」の停留所がある)を下車したら、すぐに世界遺産バスに乗ってしまうこと。
古い趣ある町並みが残る城端にも立ち寄ってほしい、まちを歩いて見てほしいと思っています。それには、提供するコンテンツや快適に旅ができる環境がまだ十分揃っていません。英訳のパンフレットを置いたり、地元の受け入れ環境の調整を行ったり、少しずつ進めているところです。
城端駅内には英語表記を併載した案内が。
多様な自然の恵みや文化が身近な暮らし
富山県は何といっても水がおいしいくて豊か。暮らしの上でとても重要なことだと思います。また、海と山が近く、両方の自然の恵みが味わえます。
南砺市は特に自然が豊かで、四季の移り変わりを感じます。それぞれの季節ならではの食べ物も豊富。高い建物がほとんどなく、空が広い。行事や祭りが市内各地に残っている。どれも本当に貴重ですばらしいです。
また、富山市も石川県金沢市も車で約1時間とアクセスが良くて便利。ただ、移住してすぐの自家用車がない頃は移動が大変でした。公共交通機関の便数は少ないし、雨の日が多くて…
初めて迎えた冬は雪が少なくホッとしましたが、どんよりした空の日が続き、気分がふさぎました。でもその分、春が来る喜びが大きく、新緑の美しさや山菜のおいしさに感動しました。
見晴らしの良い立野原(たてのがはら)の台地
地元の方とともに南砺市の魅力発信へ
南砺市は、歴史や文化が深くて色濃い。調べれば調べるほど奥深いです。誘客して案内する立場にいるからこそ、もっと勉強しなければと思っています。
また、外からの目線、内からの目線のバランスも大切にしていきたいと思います。外からの目線で南砺市を訪れるお客様が「何を求めているか」「快適に過ごしていただけるには」を考える一方、内からの目線で南砺市の受け継いでいかなければならない歴史や文化、守っていかなければいけないものを壊さないように。
海外のお客様は、日本らしさや日本の田舎に魅力を感じる方が多くいます。これまであまり光が当たっていなかった自然・文化に触れる機会や環境を地域のみなさんと作っていきたいです。
南砺市には地域やまちづくりのために活動している方が多く、みなさん熱い思いや特技を持っていて個性豊か。そんな方たちと関わり、協力し合い、ひとつの方向に向かっていけたらと思っています。
土蔵群「蔵回廊」の裏通り (城端地域)
中台さんのお気に入り
五箇山和紙の名刺入れ
五箇山(ごかやま)和紙は南砺市の伝統工芸のひとつ。和紙なのにとても丈夫。
首都圏など県外での観光PR宣伝の際に、富山県や南砺市のイメージが湧かない人も多く、話のきっかけになるそう。(愛用品は東京オリンピックのシンボルマークと同じ市松模様)
移住のアドバイス
私は移住を考え始めてから移住するまで約3年かかりました。移住を決めるにあたって、情報収集はしっかりした方が良いです。移住関連のイベントやフェアでは、地方に暮らす方や移住した方の生の声が聞けます。ぜひ足を運んでみてください。また、実際に地方に足を運ぶことも大切。私は、移住先はもちろんですが、旅をしながら自分が何を求めているかも探していました。
一方、飛び込んでみたら地域の人が助けてくれました。情報収集も大事ですが、思い切りも必要です。