富山市の田園風景が広がる集落にある築110年の吾妻建ち(アズマダチ)の古民家をリフォームし、2013年10月に移住された桃沢さんご夫妻。
約40年ぶりにUターンされた洋子さんにお話を伺いました。

 

06桃沢 洋子さん

 

—Uターンのきっかけは?

2010年頃より、老後の暮らしをどう組み立てるかを考え始めました。
夫は農作業がしたい、私は生まれ育った立山連峰が見える土地で暮らしたいと考えました。
最初は家を新築しようと土地を探していました。
分譲地や住宅団地のような場所ではなく、里山地域が希望でした。
しかし、候補だった土地は地目が農地だったため、農地法の壁があり入手が難しく諦めることに。

そんな折、物件情報サイトで今の家を見つけました。
小さい家でも良かったのですが、吾妻建ち独特の枠の内(せいろ組み三段)の太い梁と柱に心揺さぶられました。
畑も付いており、ここに住むことを決めました。家はとても傷んでいたので、全面改築しました。
横浜と富山を何度も往復し、ゆっくり進めていきました。
改築には1年半かかり、2013年11月に完成しました。

昨今、空き家の問題を耳にします。
先人が残した素晴らしい技が生きている家が、壊されていくのは残念なことです。
古い家は、新建材で建てた今の家にはない、木の温もりが感じられる生活空間を生み出します。

 

—今の暮らしはいかがですか?

毎日が畑作り。夫が主に世話をし、私は草むしりや作物の観察を。
これから野菜の勉強をしようと考えています。
例えば、野菜は朝採りが良いイメージですが、糖度が高まる夕方に採った方が良い場合もあるそうです。
他にも色々知りたいですね。
収穫した野菜は新鮮でおいしく、スーパーのものと日持ちも違います。
都会にいたときの何十倍も野菜を食べています。
それでも2人では食べきれないほどの量なので、友人にあげたり、ごちそうしたりします。

冬にはかぶら寿し作りにも挑戦しました。
今までは買うものだと思っていましたが、自分で作った素材を使い、魚も自分で下ごしらえしました。
多少の失敗があっても、とてもおいしく出来ました。

今は食べ物をつくる暮らしです。夢だった自給自足の暮らしが、ほぼ実現しました。
富山は魚もおいしいですね。この春、茹でたてホタルイカをお客さんが見えるたび、何度も食べました。
生のホタルイカを自宅で茹でて食べたのは初めてです。
茹でたホタルイカは都会でも食べられますが、茹でたては富山ならでは。
味が全然違います。魚のおいしさに、長野県出身の夫は大変喜んでいます。

また、都会では、映画やコンサートに行くのも1日仕事。
車は渋滞、人も多くて混雑しています。
でも、ここでは、夕方まで農作業をして、富山市内はもちろん、隣県の石川県金沢市のコンサート会場に行くことも難しくありません。
山菜採りやたけのこ掘りも1時間〜数時間で行って戻って来ることができます。
田舎暮らしの満足度は100%以上です。

 

—これからの目標は?

この集落は22軒しかなく、よそから来た私達への反応が一番心配でしたが、みなさんとても親切にしてくださいます。
ですから、村のみなさんに喜ばれる活動をしていきたいと思っています。
4月に自宅を開放して人形展を行い、たくさんの方にお越し頂きました。
近所の方もお招きしました。
年配の方には、昔、この家で遊んだという馴染みのある人もいて、人形展を喜んでくださいました。

古い伝統的な建物に住むことになったことをきっかけに、今後もこの家を地域に開かれた活動の場にしたいと考え、地名を入れてシンプルに「野田の家」と名づけました。
移住にあたり、土地探しに苦労しましたが、今の家に出会って逆に良かったと思っています。
地域の人たちとの距離が近く、コミュニケーションがあるのが嬉しいです。

 

—移住を考えている方へのアドバイスがあればお願いします。

どこに住むか、どういう暮らしをしたいか、自分なりにはっきりとした目的や具体的なイメージを持った方が良いと思います。
移住先に富山県をお考えの方は、冬の日照時間の少なさを覚悟してください。
富山生まれの私でも、横浜暮らしが長いため、慣れるのが大変でした。
地方暮らしは、収入が少なくても、生活の質は都会よりも高いです。
都会の便利さを手放すと、田舎の楽しみを得ることができますよ。

 

古民家暮らしを綴った桃沢さんのブログ

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