「職人さんが使う彫刻刀は自分で作ります。
刃は買いますが、柄は木を削っての自作。
修行の最初は道具作りと刃の研ぎです」。
井波彫刻職人の久保さんの自宅工房には、数え切れないほどのノミや彫刻刀がありました。

 

14久保大樹さん

 

富山県南砺市井波地区は、古刹瑞泉寺の門や柱、天井にほどこされた木彫刻製作のために集まった彫刻師が地域に根付き、今も欄間や置物、木彫刻パネルなどを作っている伝統工芸産地です。
井波彫刻は、国の伝統的工芸品に指定されています。
他の伝統工芸産地が後継者不足に悩む中、井波には毎年彫刻師を目指す若者が全国からやってきます。

久保大樹さんは北海道生まれ。新潟の大学では民俗学専攻でした。
以前から「職人か農業をやりたくて。でも農地はないし」ということで伝統工芸産地を探していました。
たまたま富山県高岡市出身の友人に井波彫刻の職人を紹介してもらい、井波を訪れました。
「漆器は工程が分業化されていましたが、彫刻は最初から最後まで一人でできる」のが気に入って、彫刻師を目指すことになりました。
井波彫刻に決めたもうひとつの理由は「組合組織や訓練校なども充実していたから」です。
就職もしないで職人になろうとする息子に対して「両親は大喜びではありませんが、賛成してくれました」。

 

そこで卒業後、1998年に井波彫刻協同組合の斡旋でめでたく彫刻家に弟子入り。
5年間の住み込み修行生活が始まりました。
井波では、5年間修行して初めて井波彫刻の職人としての歩みが始まります。

井波に来て間もない頃の話。
「誰からも必ず『あんまけ?おっさんけ?(長男ですか?末っ子ですか?)』と聞かれました。
北海道では長男だから家を継ぐということはないですから知りませんでしたが、
たぶん、自分は長男だからそのうち北海道に帰るのではと思っていたようです」。

5年間の修行の後、市街からちょっと離れた住宅地の一軒家を借りて独立しました。
お訪ねした時は木彫の天神様を製作中でした。
天神様(菅原道真)は学問の神様。
富山では男の子が生まれると、奥さんの実家が天神様の掛け軸や木彫像を贈り、正月に床の間に飾る風習があります。
井波彫刻の代表は欄間ですが、近年は需要が減っているということでした。

 

北海道と比べて富山はどうですか? と聞いてみました。

北海道出身なのに「富山の家は寒い」そうです。
北海道は密閉型の家をストーブなどで集中暖房するため室内では半袖。
富山では自然換気のため家の中が寒い。「こっちで初めてコタツに入りました」。
雪の質も全然違います。
「北海道は雪も凍ってしまいます。降ってもふわふわ。
富山は凍らないけど湿った重い雪。数年前には雪下ろしも経験」しました。

あとは近所付き合いの違い。
「北海道は一応町内会や老人会はありましたが、井波では青年団や壮年会、老人会などさまざまな活動があって戸惑いました。
それと建前と本音が別なのも最初は慣れませんでした。
でも一度地域に溶け込めばいろいろと教えてもらえるし助け合っています」。
獅子舞にも参加しているそうです。

奥さんとは弟子入りしていた時の仕事場で知り合いました。
来年冬にはお父さんです。

それから、富山に来て10年、今年から「周囲にいっぱいあるので」登山を始めました。

 

14久保大樹さん02

お盆に乗る猫

 

帰り際、隣の部屋のテーブルの上に『お盆に乗る猫』の彫刻(写真)を発見。
「面白いので、いろいろと遊びで作っています」。
作る彫刻には『商品』と『作品』があり、これは『作品』だそうです。

遊び心もある素敵な久保さん。井波の伝統を受け継いで発展させてください。