高岡市本町にある町家体験型のゲストハウス「ほんまちの家」。管理人の加納亮介さんは千葉県千葉市出身の大学院生。現在はこのゲストハウスに住みながら、週に一度東京の大学院へ通っています。高岡に居住するに至った経緯や、暮らしについて伺ってきました。
都会で育ったからこそ憧れた“田舎暮らし”
千葉県の市街地で生まれ育ったため、子どもの頃から田舎暮らしへの憧れがあったという加納さん。地方都市のまちづくりに興味があり、大学で都市計画を専攻。実際に地方を訪ね歩くなかで、都心と比べオープンな人間関係に魅力を感じ、地方での暮らしにますます興味を抱くようになりました。そんななか、研究室の教授からの誘いで訪れた高岡で「高岡まちっこプロジェクト」の服部恵子さん、荒井里江さん、國本耕太郎さん、桶川淳さんと出会ったことがきっかけとなり加納さんと高岡との距離がぐっと縮まります。
※高岡まちっこプロジェクト…高岡の中心市街地での若者の「まちなか居住」を促進するプロジェクト。
“ほんまちの家”との出会い
研究活動で高岡を頻繁に訪れるようになった加納さん。高岡まちっこプロジェクトと空き家を見学するイベントを企画し「ほんまちの家」に出会います。20年ほど空き家だった家の中には家財道具や雑貨が当時のまま残されていました。取材でお邪魔した部屋にも当時から使われていたものがあちらこちらに。
「家主の方の手作りだと思うんですよ」と教えてくれたティッシュボックスケースの引き出しからは当時のお金が。「こんなこともあるからおもしろいんですよ。カレンダーの日付が住んでいた当時のままだったり、家の歴史がうかがえるのがおもしろいなと思う。そこはよそ者だからかもしれないですね」。
ティッシュボックスケースの引き出しから、当時のお金がでてきました
ほんまちの家のオーナー服部さんの意向もあり、町のニーズや空き家の活用方法を考えるワークショップを実施。最終的には「不特定多数の人に高岡の町家を体験してもらいたい」という思いからゲストハウスにすることにしました。ここまで深く携わってきた加納さんは、周囲の方々の推しもあり大学院へ進学し、通学しながらほんまちの家の管理人になることを決めました。
蔵での生活
昭和13年築の「ほんまちの家」は家の中に蔵があるのが特徴。加納さんは現在蔵の2階に住んでいます。「改修工事中、寒さをしのぐために蔵で寝泊まりしていましたが、居心地がよく管理人となった今でも住んでいます」。
改修が終わるまでは、ガスが止まっていたため銭湯に通うなど何かと不自由な生活が続きましたが、不思議とストレスはあまり感じませんでした。新しい発見があり楽しかったです」と加納さんは話します。
廊下の奥には蔵があります。加納さんが住んでいるのはこの蔵の2階
近所の方々との交流を通して強くなった想い
「ゲストハウス」は地元の人にとってあまり馴染みがなく、町の人の反応は様々でした。「最初は近所の方々との関わりもほとんどありませんでした。それでも住民票を移し、本格的に住み始めていくうちに近所の方もよく話しかけてくれるようになりました」。加納さんは「このまちを元気にしたい」という想いから、自治会長さんと相談し、さまざまな企画を考えるなど意欲的に地域活動を行いました。
「夏には児童クラブと一緒に七夕飾りを作りました。また自治会にそれまでなかった納涼祭を企画し、地元の方と盛り上がりました。
自分でできることはとにかく何でもやろうと、この1年間は地域の方と交流を深めてきました。班長会、新年会、住民運動会や資源回収にも積極的に参加しました。地域の人と関係性を作っていくには、自治会の行事に参加するのが第一歩だと感じましたね」。
現在は町内の方から畑を借り、自家菜園をしています。「枝豆とか、収穫したものを納涼祭に出す目的で始めました。ゆくゆくは、町内みんなで運営ができたらなと思っています。今年の白菜は全部青虫に食べられましたが(笑)」。
加納さんが企画した納涼祭。流しそうめんも行いました
加納さんの後ろに見える暖簾は富山大学芸術文化学部の学生さんがデザインしたもの
高岡の面白さをさらに伝えていきたい
今後の目標は、高岡の魅力や面白さをより広く伝えるため、移住体験プログラムを企画したいと話す加納さん。
「タケノコ掘りに行ったり、稲を収穫したりと、普段の暮らしを体験できるプログラムで田舎に興味がある人を増やしたい。高岡の暮らしを季節ごとに発信できたらと思っています」と目を輝かせます。
「東京は情報量が多く埋もれてしまう。そんな中で地方の魅力を一人一人に伝える機会を増やしていけたら、もっと来訪者も移住者も増えると思います」。加納さんの挑戦はまだまだ続きます。
加納さんのお気に入り 
木彫りの熊
空き家で見つけることの多い木彫りの熊は加納さんのお気に入り。それぞれ表情がありかわいらしい。
柿しぶ、漆喰の板、コテ
ほんまちの家の壁をみんなで塗った時に使用したもの。
メジャー
加納さんがよく持ち歩くもの。家のものを測る時や、まちあるきなどで使います。
あなごのねどこと仏生山温泉のフライヤー
ほんまちの家にも影響を与えている、加納さんの好きなゲストハウスと温泉。
ほんまちの家で見つけた素敵なもの
ほんまちの家の看板。緑の漆を塗った特注品。
廊下にある昔の高岡の地図。綺麗な状態で残されています。