標高1000m以上の山々に囲まれた、人口約600人の小さな山村。
南砺市利賀(とが)へ2014年3月に移り住んだ干川拓海さんは、群馬県嬬恋村の出身。
はじめて利賀を訪れたのは、東京農大の学生だった頃、豊かな自然や暮らす人々に魅了され「気がつくとここに来ていた」といいます。
現在は、都会に住む人たちと山村との交流体験をすすめるお仕事にたずさわっています。

 

13干川 拓海さん

 

—富山に移住するまでのいきさつを教えてください。

大学のとき、友人を介して『利賀ゼミ』(慶大生をはじめとする大学生・社会人との交流活動)のメンバーと知り合い、村の話を聞いたのがきっかけです。
それ以前は、利賀はおろか、富山のことすらほとんど知りませんでした。
利賀を訪れて、最初の印象は「なんも無いな〜」でした(笑)。
ところが、何度か通ううちに、ここがすごく好きになって。
特に、北豆谷(きたまめだん)地区の祭りに参加したときのことが強く印象に残り、卒論も「北豆谷地区の獅子舞」をテーマにしました。
利賀に来たときは毎回、農家民宿などで農作業をして泊めていただいたこともいい経験でした。

 

—移住を決めた理由は?

大学を出たら、農業など一次産業の仕事がしたいと思っていました。
就活では、どこかに就職するのが良いか、それとも自分でやった方が身につくだろうかなど、いろいろ迷いました。
そんなとき、「利賀に来ないか」と誘ってくださった方がいたんです。
卒論のために通った頃から大変お世話になった方で、利賀に移ることを決めると、住むところや仕事の相談にのってくださり、“利賀のお父さん”みたいな存在です。
実をいうと、僕は期間を決めてこちらに来ています。
実家は、群馬県の嬬恋村でペンションをしており、30歳になったら家業を継ぐと決めています。
ただ、大学を出てすぐに家業を継ぐのではなく、いろんな経験をしたいという思いがありました。

 

—利賀ではどんなお仕事をされていますか?

今は『南砺市利賀地域長期宿泊体験協議会』の事務局の仕事をメインにしています。
時期にもよりますが、週に3〜4日出勤します。
仕事の内容は、都市と山村の交流体験を目的とした『利賀ゼミ』や『セカンドスクール』などを通じて、利賀を訪れる大学生や社会人、学童などの受け入れとサポートを行います。
学生が企画するツアーの取りまとめも行い、昨年度は初めて冬のツアーも開催しました。
体験のピックアップや受け入れる住民のみなさんとの調整は、現地にいないとできないこと。
体験については、「どこどこに行き、こんなことができる」というよりも、民泊して村の人と一緒に農作業をし、生活を共にすることをおすすめしています。
利賀のいちばんの魅力は、ここに住む人たちで、ありのままの利賀の暮らしが一番の体験になると思っています。

 

—他にはどんなお仕事を?

農業公社にお願いして、農作業を手伝わせてもらっています。
他に、民宿やお蕎麦屋さんでも手伝いをしています。
住みはじめて気づいたのですが、仕事は豊富です。
一つ一つは大きくなくても、さまざまな収入源があると実感しています。
都会では、会社に入って一つの仕事を続ける場合が圧倒的に多いと思います。
しかし、利賀のような山村では、複数の仕事を組み合わせる多業スタイルが珍しくありません。
僕の場合、農業をやりたいけど、それ一本だと不安がありますし、いろんな経験をしたいので、このスタイルが気に入っています。

 

—住まいはどのようにして見つけましたか?

最初は民宿の仕事を手伝いながら居候をさせてもらいました。今は空き家を借りています。
空き家の維持は大変で、特に冬期は雪下ろしなど管理費用がかさみます。
この家を借りるときは、「住んでくれるなら家賃はいらない」といわれました。
家財もひと通り揃っていたので、衣類など最小限の荷物だけで転がり込んだ感じです。
もちろん、冬は道路に出るまでの除雪や屋根の雪下ろしが必要で、いい運動になっています。
間取りは10LDK。
利賀ゼミの学生さんなどを泊めることもあるので、広めの家がいいと思っていましたが、さすがに驚きました。
都会では、あり得ないことですね。

 

—富山暮らしの感想を聞かせてください。

良かったのは、都会に住んでいたらきっと関わることのない世代の方々と仲よくなれたこと。
利賀の人は宴会好き。僕も呑んで語り明かすのが好きなので楽しいですよ。
正直、利賀に住みはじめたばかりの頃は「たまには同世代の友達と遊びたい!」と、ストレスを溜めることもありましたが、今はだいぶ慣れました。
面白いのが、東京に住んでいたときよりも都会の友達が増えたことです。
利賀ゼミや学生ツアーで来た人たちが連絡をくれ、再び利賀を訪ねてくれたり、東京出張のついでに僕から会いに行くこともあります。
利賀に来て、人との縁をすごく大事にするようになったと思います。

 

13干川 拓海さん03

 

—今後の目標はありますか?

山登りとスノボが趣味で、学生時代は冬の八ヶ岳に登ったり、剱岳(つるぎだけ)でロッククライミングをしたこともあります。
利賀に来てからはまだ登山をしていませんが、金剛堂山には一度登ってみたいと思っています。
また、アウトドアを絡めた体験を企画できないかとも考えています。

 

—移住を考えている方へアドバイスがあればお願いします。

買い物は、利賀にはコンビニもスーパーもないので、主にネットスーパーを利用しています。
注文したら、その日のうちに届くのでとても便利です。
ご近所から大量のおすそわけをいただくこともあります。
仕事は、選ばなければたくさんあります。住むところも何とかなります(多分)。
ただし、利賀のある南砺市は豪雪地なので、冬は覚悟してきてください!