富山市八尾町(やつおまち)に2016年4月にオープンした“越中八尾ベースOYATSU”。「すこしふしぎな旅の宿」をコンセプトに八尾に根づく町人文化を体験できます。ここを運営しているのが原井紗友里さんです。

おやつ01越中八尾ベースOYATSU 趣があります。

原井さん

高校卒業後、「国際的に働きたい」と思い、東京の大学の教育学部の国際教育を専攻。富山の企業へUターン就職を考えましたが、「このまま一生富山で暮らすことになっていいのだろうか…」と悩みました。その矢先、日本人学校の求人を見つけ、すぐに応募。中国・チンタオへ赴任し、中学部の社会科、小中学部の中国語を教えることになりました。

Uターンしようと思ったのは?

中国での4年間、現地に駐在して働く日本人、グローバルに働く剣道サークルの仲間たちなど、多くの方々と出会いました。そして、10年後、20年後の自分を考えたときに、国際的に働けるビジネスに挑戦したいと思いました。任期を終え、知人の紹介で富山のコンサルティング会社に就職が決まり、Uターン。海外販路開拓に携わりながらビジネスを学ぼうと思いました。

離れて見えた富山の魅力と疑問

富山に戻って感じたことは、豊かな自然が身近にあり、海の幸・山の幸にあふれていること。富山の人にとって“当たり前”のものですが、とても特別だと気づきました。また、仕事を通して、農業、伝統工芸品、お菓子など富山のものづくりの技術の高さや情熱を感じました。そして、海外旅行客が増えていることにも驚きました。
しかし、わざわざ富山に来てくれたのに、本当の富山のよさを感じられているのだろうかと疑問に思い始めました。

起業に向けて

1年後退社し、「とやま観光創造未来塾」のグローバルコースを受講しました。岐阜県飛騨の「美ら地球(ちゅらぼし)」で研修し、観光・ビジネススキルを学びました。海外の方が何に感動するか…それは、日本人の日常の生活に感動することに気づきました。里山をサイクリングで走り、土地の生活を感じる。観光スポットではなく「なんでもない日常」が面白いんです。そこで、「富山らしいもの」をどうプロモーションしていくかを徹底的に学び、考えました。

八尾を「ベース」に 八尾の魅力を伝えたい

起業場所を検討するため、県内を見て回りました。その中で、八尾ほどもったいない場所はないと感じました。おわら風の盆、八尾曳山まつりに見られる文化的な暮らしと日本の原風景が残る里山。自然と文化のコントラストが素敵だと感じました。
また、JR高山線にも目をつけました。高山と金沢にはたくさんの海外旅行客が訪れています。その人たちが途中の八尾に立ち寄れる場所を作ればこの魅力を伝えられると思い、八尾に決めました。
「とやま観光創造未来塾」の研修中から八尾に毎週のように通い、起業に向けて人とのつながり、活動拠点となる場所を探し始めました。現在は、「旧数納邸(すのうてい)」を活用して、宿とカフェを運営しています。起業後、すぐに八尾町内に住み、八尾の暮らしにどっぷりつかって、毎日八尾の魅力、“たからさがし”をしています。

海外の人の意外な視点を再認識

2016年1月に株式会社OZLinksを設立。コンセプトは、「TOYAMAに残された宝を見つけ、守り、その宝の魅力を世界に発信するエキスパートとなる」です。
たとえば着物。たんすにしまったままにせず、自分が着て生かすことで、積極的に使って文化を守ることになります。使わない人にとっては要らないものでも、私たちにとっては“たから”です。
会社設立後、海外の方の視点で“たからさがし”をしようと台湾から3人の友人を呼びました。彼らが感動したのは、和紙漉き自体より和紙にのせる色づいた葉っぱ、はじめてみる雪、星空、富山平野の夜景…すべて日常にある当たり前のものでした。雪に感動して、ちょっと散歩のつもりが2時間帰ってきませんでした。四季を感じながら生活している日常の中に宝物がたくさんあると再認識しました。
「OYATSU」のコンセプトを「八尾に残る四季を楽しむ町人文化を体験してもらおう」に固めました。

八尾おやつベースについて

4月にオープンした「越中八尾ベースOYATSU」。『暮らしを体験できる宿』であり、「泊まる」「遊ぶ」「交流する」機能をもった観光拠点です。
「日常をいかに見せるか」を考え、雑巾がけや柱を米ぬかで磨く掃除、着物を一緒に着るなど日常を体験してもらっています。八尾の生活ありのままを見てもらいたいです。カフェは、地元の方と旅行者をつなぐ場所にしたいと思っています。毎日、観光客はもちろん、地元の方も気軽に来て声をかけくれるので、人が来ない日はありませんね。

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八尾の町並みを眺めながらゆったりとした時間が過ごせます。

地域の方に支えられて

とにかく地域の皆さんは優しいです。着物をはじめ、インテリアなどご近所さんからいただいたものがたくさんあります。掛け軸はお向かいの表具屋さんが毎月掛け替えてくれるんです。着物や掛け軸も四季によって変えていくことを教えてもらったり、旬の野菜や山菜をいただいたり…本当に支えられています。近所には「相談役」の方々がたくさんいます。私は、この越中八尾ベースOYATSUは「地元の方と一緒に作っている」「八尾のよさを一緒に伝えていっている」と思っています。

今後の目標は?

「ベース=拠点」。ここを“ベース”にして、外からのゲストに富山のよさ、八尾のよさを感じてほしいですし、八尾を冒険してほしいですね。
また、八尾に住む人たちにも衣食住の中に四季があふれている当たり前の生活に価値があること、八尾の魅力に気づける“ベース”にしたいと思っています。おわら風の盆、八尾曳山まつり以外の362日の日常も価値のあるものだと伝えていきたいです。この魅力をぜひ多くの人に知ってもらうための仲介ができればいいなと思っています。こういった冒険ベースが富山だけでなく日本中にが増えてほしいです。

越中八尾ベースOYATSUホームページ

Facebookページ


原井さんのお気に入り

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花寄せの習慣
道端や庭に咲いている季節の花を飾る習慣が八尾にはあります。うちの庭にはない花は近所の方が持ってきてくださったもの。

お茶の箱
いらなくなったものをもらって、机としてリメイク。ふたの部分は近所の子どもたちと和紙を貼って作りました。

どくだみ茶
裏の庭で取れたものを店先で天日干しして作ったもの。カフェのウェルカムドリンクとして提供しています。

移住を考えている人へ

「クオリティオブライフ」
Uターンして暮らしの質が上がりました。都会は便利なものがたくさんあるし、お金があればなんでも手に入る。富山では、近所の人が庭で採れた野菜や釣った魚をくれたり、着物や髪飾りをくれたり、行燈やテーブルをくれたり、衣食住なんでも誰かが助けてくれる。お金では買えない、人のあたたかさが富山にはあると思います。何か一生懸命やろうとすれば周りの人が助けてくれる。人とのつながりを実感しました。つらいことがあっても、応援してくれているたくさんの人のことを思い浮かべればがんばれます!
「何気ない日常が幸せだな」と感じられる風土が富山の魅力だと思います。