おいしそうな瓶詰めがずらりと並ぶジャム工房「えっちゅう風土」。
阿保政幸さんは、会社員と両立して奥さまとともに工房を運営しています。
北海道出身の阿保さんは富山県のことを全く知らずに移住し、今年で15年。
富山に住み続ける理由と、ジャム作りについてお伺いしました。

 

02阿保さん

 

—富山県に移住したきっかけは?

札幌の会社を退職したのち、半年ほどイベント会社のアルバイトに登録していました。
しかし、イベントの頻度で収入にかなり変動があり、安定した収入の仕事がないか探していました。
2000年2月、自分の条件に合う求人が富山県にあり、転入しました。
その後も富山県内で何度か転職し、今は富山市八尾町の会社に勤務しています。

 

—移住前の富山県のイメージは?

仕事があることが先だったので、富山県の情報は全く持っていませんでした。
どこにあるかも分からないくらい。
初めて富山に来た日、富山空港に職場の方が迎えに来て入善町の勤務先まで案内して下さいました。
その道中、何もない風景がずっと続いていて、とても衝撃的でした。
生まれ育った札幌は、人も建物も多くにぎやかな都会。
それに慣れているので、最初はいなかの暮らしに慣れず辛かったです。
1年住んでいられるか不安でした。

 

—富山の暮らしはいかがですか。

来たばかりの頃は予備知識がなく、不安いっぱいのどん底スタートでしたが、その分いろんなことがプラスに感じられ、振り返ると15年経っていました。
富山に来てから初体験がたくさんありました。
気候では梅雨や夏の暑さ。
生き物ではヘビが道路を横断していたり、カエルを間近で見たり。
食では天然ブリやホタルイカ、ズワイガニなどを富山に来て初めて食べました。
富山は魚介の種類が豊富で美味しいですね。
立山連峰がまちなかから見えた時は感動しました。
富山に来て、自分は自然が好き、山を見るのが好きだと気付きました。
黒部峡谷のトロッコ電車に乗ったときの風景も素晴らしかったです。
3000m級の山のすぐ近くに海があるという地形も希少ですね。
また、富山は歴史上の人物が何人も来ていたり、大事件があったことを知り、歴史好きの私は感激しました。

 

—「えっちゅう風土」について教えてください。

「えっちゅう風土」では、妻と二人で無添加のジャムを作っています。
調理の経験を活かして商品開発を主に担当しています。
会社員の仕事が終わったあとに工房へ行くことが多いですね。
レシピは妻と共有し、製造にあたります。
妻はジャムに合うシフォンケーキや焼き菓子、プリンなども作っています。
ジャムを作り始めたのは、娘が野菜を全く食べなかったことがきっかけです。
なんとか食べてほしいと色々考えて、野菜をジャムにしたら、ようやく食べてくれました。

 

2012年から製品化し、ネット通販や卸、イベントで販売しています。
そして2015年10月、富山市旧大山町に工房をオープンしました。
ジャムに使う野菜や果物は富山県産にこだわっています。
最初は野菜だけで展開していましたが、徐々に農家さんの知り合いが増えて果物のジャムも作るようになりました。
富山県は意外に色々な果物を作っている農家さんがいらっしゃいます。
以前はどこから材料を仕入れようか苦慮していたのに、最近は農家さんの方から「これを使ってジャムを作れないか」とお問合せいただくようになりました。
今は会社員と二足のわらじですが、いつか「えっちゅう風土」一本で生活できるようになれたらと思っています。

 

—移住を考えている人へのアドバイスをお願いします。

豊かな自然やスローライフなど、田舎暮らしへの良いイメージばかり膨らんでしまうと、
現実とのギャップを感じるかもしれません。
お店も交通手段も都会より格段に少ないし、不便をどこまで許せるかを検討した方が良いと思います。
近年は移住者の受入れに積極的な地域が増えてきましたが、実際は受入れる準備ができていない・接し方が分からない地域のほうが多いのではないでしょうか。
いなか特有のしきたりに戸惑うこともあるかもしれません。
また、標準語で話すと地元の方たちは構えてしまうのか、打ち解けるまで時間がかかる感じがします。
これらのことを理解した上で移住を考えることをお勧めします。

 

▶︎えっちゅう風土