今回の移住者の先輩は、研磨職人兼金工作家の尾崎迅さん。
本サイトの<地域に聞く>に以前ご登場いただいた、高岡伝統産業青年会の第38代目会長・定塚康孝さんから、高岡の伝統工芸を守るために頑張っている県外出身の作家さんがいると、紹介していただきました。

向かった先は、土蔵造りの重厚な商家が並ぶ、高岡市山町筋の通りから、少し中に入った住宅街にあるアトリエ「uwaya」。家具店の倉庫だったという鉄筋3階建ての建物を、尾崎さんが作業場として利用しています。

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研磨作業を行う、アトリエの1階

一度は離れてみたものの…

尾崎さんは金沢美術工芸大学工芸科鋳金コースを卒業しましたが、多くの先輩たちの姿から鋳造作家として生きるのは厳しいと考え、一度、鋳物の世界を離れます。地元・大阪に戻り、アルバイトを含めさまざまな仕事に挑戦していましたが、どれも気持ちが入らずモヤモヤする日々を送っていました。

「先行きが不安で、何をすればいいのか分からなくなっていました。そんな時、大学時代にお世話になっていた、高岡在住の金工作家・槻間秀人さん(つきま・ひでと)が、急に入った仕事があるから住み込みで手伝ってくれないか、と声を掛けてくださり、金属にヤスリをかける研磨作業を担当させてもらうことになりました」。

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穏やかでゆったりとした雰囲気の尾崎さんですが、作品はとても力強い

“伝統工芸を守る大事な若者”として見初められ…

高岡の伝統工芸は分業制が基本なので、その技術は持ちつ持たれつ。伝統産業に従事する人の高齢化や後継者不足が深刻な問題となっています。
そんななか、高岡の伝統工芸に興味があるだけでなく、大学で鋳造技術を学んできた尾崎さんは、高岡の未来を担ってくれる貴重な存在として、地元の人の目にとまります。

「槻間さんが取引先の方と協力して、次の就職先を紹介してくださりました。さらに、さまざまな技術を習得できるプログラムを組んだり、週3日は社外の研磨職人さんの元で修行するという条件を就職先にお願いしてくれたりと、若手職人を育てたいという想いで一生懸命面倒を見てくださいました」

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研磨作業中の尾崎さんの表情は真剣そのもの

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たくさんの研磨布。用途や磨くものによって使い分けるそう

働くことになった職場は、創業100年をこえる老舗鋳造所。従業員の大半は60代で、技術の継承や新たなる表現の可能性を求めていました。地元の方が繋いでくれた縁を大事にしたいと、尾崎さんも新しい職場で奮闘します。

「修行させてもらいながら働くなかで、会社の技術を活かし、仕事の幅を広げられるものはないかと常に考えていました。そんな時、高岡クラフトコンペの出展の話がきました」
作家さんとデザインを考えたり、社長の協力のもと現場のスケジュール調整を行ったりと、会社の新たなる可能性を求め、挑戦の日々を送ります。そして、2012年のファクトリークラフト部門にて見事グランプリを受賞。

「クラフトコンペでの受賞がきっかけとなり、展示会やギフトショーへの参加など、今までとは違ったフィールドで会社のPR活動ができるようになりました。また、グランプリを獲れたことで、お世話になっていた会社に少しは恩返しできたかなと…」

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尾崎さんのアイディアがギュッと詰まったスケッチブック

 

高岡だからこそできる、作家活動

アトリエを借りたのは会社員の時。研磨職人として着実にスキルを上げていった尾崎さんでしたが、金工作家として表現する場をもちたいと、高岡のものづくり作家3名とアトリエ「uwaya」を立ち上げます。最初は会社勤めをしながら作家活動を続けていましたが、4年過ぎた際に独立を決意します。

「鋳物は、溶解炉などの設備が必要となってくるので、個人で作家活動を行うには厳しい業界です。でも、そこはさすがの高岡・鋳物のまち。自分で型だけをつくり“貰い湯”(鋳造所にいき、金属を流してもらうこと)しにいくことができるんです。定塚さんの工場にお邪魔したこともありますよ。小さい型であれば、高岡市デザイン・工芸センターなども利用できますし、このアドバンテージはかなり大きいと思います」

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尾崎さんの作品「アイアーチ」。差し込む光によってさまざまな表情をみせる

そして、もう一つ、尾崎さんの作家活動の支えとなっているのが「高岡伝統産業青年会」(通称:デンサン)のメンバーの存在です。

「昔から一人が好きで、群れることが苦手なタイプの人間なので、デンサンに入るのもあまり乗り気ではなかったのですが…。職人からクリエイターまで幅広いジャンルのメンバーがいるので、鋳物業界の知見が広がりましたし、良い刺激をもらっています。最近は、みんな忙しいので、朝6時にファミリーレストランに集合して、展示会やイベントなどの企画会議を行っています。今ハヤりの朝活です(笑)」

 

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尾崎さんの作品「ひょっとこ」と名づけられた真鍮製の一輪挿し

 

これからのこと

ひょんなことから始まり、色々な人との繋がりでどんどん広がっていった尾崎さんのものづくり生活。最後に、これからの抱負を伺いました。

「ここに来るまでに、たくさんの方が協力してくださり、熟練の研磨職人さんが僕を育ててくれました。今度は僕が、“技術と想いをつないでいく”という流れを循環させていきたいなと考えています。高岡に来た当初は、分業制に対してあまり良いイメージを持っていなかったのですが、今ではすごいシステムだと感じています。技術の粋が詰まっているというか、そのやり方じゃないと絶対に生まれない技術の高さに感銘を受けました。だからこそ、人とのつながりや技術の継承を大事にし、後世に受け継がれるシステムを作っていかなければいけないと感じています」


尾崎さんのお気に入り

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アトリエの3階は、尾崎さんの趣味がギュッと詰まった、“お楽しみ空間”。尾崎さんがつくったボルダリングウォールは、仕事や作品づくりの息抜きに利用しているそう。大好きなものに囲まれて、風が抜ける気持ちの良い空間でまったりと。贅沢な時間です。

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