2015年6月、南砺市地域おこし協力隊に着任し、「農林業資源を活かした産業化」担当として市内全域で活動する伊勢谷千裕さんは絵本作家でもあり、これまで2冊の絵本を出版。手で製本する絵本は、ひとつひとつが芸術作品のようです。その制作活動の中から、南砺市に移住するきっかけが生まれました。

伊勢谷さん

南砺市エコビレッジ構想との出会い

出版した絵本では、ただ美しい世界や綺麗ごとではなく、社会問題・環境問題・地球の裏側で起こっている不条理などを徹底的に調べた上で、それでも明るく生きていこうという物語を書いていました。
しかし、知れば知るほど問題にあふれている世の中。その問題を知ってしまった人間の責任として、そこには必ず具体的な解決策があると信じ、さまざまなことに行動で示そうと強く思うようになりました。
そんな中、偶然かつ必然的に見つけたのが南砺市のエコビレッジ構想。非常に感銘を受け、これに携わりたいと移住を決意しました。

自然から与えられた新たな学び

隊員の活動では、農業を通して働くことの本当の意味、林業を通して自然との共存・共栄を学んでいます。
移住前、野菜はスーパーに売っているものしか見たことがありませんでしたが、移住1年目は、週2~3回通う湧々(わくわく)農場で野菜の一生を学びました。
湧々農場の野菜は「いのちが喜ぶ野菜」。安全安心な野菜づくりに関わるうちに、いつの日か自分の体や心が健全な状態で土に還りたいと考えるようになりました。

湧々農場01見晴らしのいい南砺市立野原(たてのがはら)にある湧々農場
湧々農場02

言葉の力を信じて伝える

南砺市は伝統・文化・精神性が深く、どこか懐かしい古き良き田舎の暮らしと同時に、精神文化度の高い暮らしができます。これは南砺の特権です。祭りや伝統舞踊が各地にあり、ここに暮らす人たちは日常の所作も美しい。このような南砺市の魅力を、絵本作家の能力を活かして発信しています。

獅子舞伊勢谷さんが暮らす大鋸屋村の春季祭礼の獅子舞
雪山豪雪の五箇山で赤カブの収穫

趣味がサーフィンということもあり「移住するなら南国へ」と考えていましたが、予期せぬ雪国に移住したことで想像をはるかに超えた出来事が起き、日々感動があります。作家としての発想や表現の幅が広がり、得るものがたくさんありました。

サーフィンサーフィンからは地球の波動を感じるそう

一方、世の中に起きている問題点を知る・危機感を共有することも大切だと思っています。その機会になればと、社会課題をテーマとしたドキュメンタリー映画の上映を毎月開催しています。

366日間の南砺移住物語

今まで移住する友達を送る立場だった自分が移住することになり、家族や育った街を離れて暮らすのが初めてでした。日記は、家族や友達に自分が元気に生きていることを伝えるため、移住者の目線で南砺の魅力や誇りを再発掘するため。そして書くなら誰もができることではないことをしようと、1年間毎日書くと決め、ブログやSNSで発信を続けました。

南砺では、見る・聞く・感じる・触れるものすべてが新鮮。未知なる世界で感じる今しか書けないものを書きたいと思いました。しかし、楽しかったのは最初の3ヶ月くらい。日記を書き続けるのは南砺のためではなく自分のエゴではないかと悩み、苦しいときもありました。
日記は同じ表現が一度たりともありません。次第に表現が枯渇し、そのあと心の奥から湧き出すものを書いていました。日記を書き続けることは、作家としての挑戦でもありました。

1年間書き続けて学んだことは、今日死んでもいいと思えるくらい感動しているときは写真を撮ったり文章を書いたりしている場合ではないということ、そしてそれでも記録を残すことの大切さです。今は成し遂げたという思いです。

南砺のために今できること

派手なことより地味なこと、日本一・世界一のものではなく普遍的なものの中に、このまちの為になることがあります。イベント・企画・プロジェクトではなく、ムーブメントが重要。
ある種のムーブメントのひとつに、お世話になっている湧々農場のロゴをデザインしました。デザインは時に人を幸せにし、デザインは時に世界を変える力があり、ロゴは野菜の売り上げの良し悪しに影響します。

湧々ロゴ湧々農場のロゴ

地域おこし協力隊の制度は究極に利他的な活動ができます。そのことで「あげる」「もらう」の人間関係が成り立ちました。利他的なことが連鎖したら、とてつもないことが起きるのではというワクワク感があります。
隊員の任期は3年間。任期終了後は、意志を持って自然の流れに委ねようと思います。

▷ ブログ「南砺移住物語 chihiroiseyalife」
▷ 南砺市地域おこし協力隊Facebookページ


伊勢谷さんのお気に入り

お気に入り

(左上から時計回りに)

寺山修司名言集
初めて自分と同じような人、時空を超えて友達と出会ったような感覚。

塩糀
北陸の発酵食文化に触れ、塩糀に出会ってから食に対する人生観がガラッと変化。

ラジオ
DJとリスナーの心の距離がものすごく近い。心の支え、元気をもらっている。

「ほんの小さな物語」
1作目の絵本。小さな女の子からおじいさんまで登場人物がさまざま。全てが伊勢谷さん自身を構成する要素。

「太陽と月の歌」 
2作目の絵本。社会問題・環境問題がテーマ。 移住のきっかけとなった作品。

CHIFFRE ROUGEの腕時計
2001-2002秋冬のパリコレクションで、細身で洗練されたロックテイストのスタイルを打ち出し、世界を震撼させたDIOR HOMMEの世界観が凝縮されている。身につけることで誇らしい気持ちに。

手帳
スケジュール管理はもちろん、ひらめいた文章を書き綴っている。物語のネタがぎっしり。高校生の時から愛用。

移住のアドバイス

永住を覚悟するとか仕事があるかなどの心配をするより、飛び込んでみては。
実際に南砺市に暮らしてみて、風土や人の温かさに触れるうちに郷土愛が芽生えてきました。
「地方に仕事がないから上京する」と言われますが、「仕事がない=ビジネスチャンスがある」ということ。
地方には足りないものが多く、それを仕事にできる可能性があります。「夢を叶えるなら地方へ」の時代になってきていると感じます。
まずは動いてみる。行ってみる。もちろん、しっかりとその土地のリサーチは必要です。