とにかく飛び込もうと、山の中へ

江尻 美佐子 さん(えじり・みさこ)

出身地:静岡県
現住所:南砺市 
職業:一般社団法人moribio森の暮らし研究所 代表
▶︎一般社団法人moribio森の暮らし研究所

16年前(2016年時点)静岡県から富山県旧利賀村(現・南砺市)へご家族で移り住んだ江尻美佐子さん。
脱サラをして林業を志したご主人とともに、当初はさまざまな文化や習慣の違いを経験しました。
現在ではご主人と、利賀の林業を支える一人として活動。2012年に『一般社団法人moribio森の暮らし研究所』を設立し(2014年法人化)、森の資源で山の新たな価値を生み出そうと活動されています。

09江尻 美佐子さん

富山移住のきっかけ

—富山に移住するまでのいきさつを聞かせてください。

もともと自然やキャンプが好きでしたが、テレビ番組で林業の世界を知り、主人が強く山暮らしを希望しはじめたのがきっかけでした。
山村、しかも豪雪地帯! での暮らしは二人とも全く無知に近い状態でしたが、とにかく飛び込んでみようと決めました。

富山県は主人の故郷で、実家の介護の状態などから移住も考えていたところでした。
実家に比較的近く、さらに森のある県内外の自治体と森林組合に手紙を出しました。
すると、真っ先に返事がきたのが、利賀村でした。

また、当時、利賀村には「青年山村協力隊」の制度があり、仕事と住居の支援があったこともここを選んだ理由です。
ただ、行政的な制度以上に、担当の方がとても丁寧に親身になって対応してくださったのがとても心に響きました。
2トントラックで、自前で引越しをしたのですが、利賀ふるさと財団の当時の常務が、とけた雪が屋根から滴り落ちる中、荷物搬入を全部手伝ってくださり、申し訳ないと思うほどありがたかったです。

—利賀に移った当初のことを聞かせてください。

最初はカルチャーショックの連続でした。
まず驚いたのが、男女の役割の違い。
利賀では、女性は男性をたてるという文化が残っていました。
「男女平等」と学校でも習っていたし(笑)私は男性をたてる、というのが上手にできない嫁でしたね。
こうした私に、「そこがうまくやっていくコツなんじゃよ」と諭しながらも、宴会の片付けも率先してやっている男性陣の姿を見て、「男性をたてる」のが、女性から男性へのサービスの一方通行ではなく、「お互い尊重しあう」きっかけなのだと気づかされました。
都市や町に住んでいるときには、こうした年齢や性別を超えてさまざまな立場の人と酒を酌み交わして語り合う、という機会は皆無でした。

それから、とても遠慮深い点。
遊びに来られたばあちゃんにお茶をすすめても、「いらんいらん」と言われ、関東、岡山で育った私は言葉どおりに受け止めていましたが、一緒に時を過ごす中で、それは遠慮なのだとわかりました。
今では、お茶を遠慮されても、何度か多めに勧めるようになりました(笑)。
また、古民家はとても広く、村の来客者の玄関から勝手に入り、居間の戸を開けながら「おるけ?」と来られる慣習に、最初は戸惑いがあったりしました。
ここで暮らしの中でそうした人と人との近さが、驚き→鬱陶しさ→楽しさ→精神的な増幅、と変化してきたように感じます。

—江尻さんが思う利賀(南砺)の魅力はどこですか?

豊かな自然、美味しい食べもの…。
いろいろありますが、一番はやはり「疎(まばら)」所以の人と人との繋がりの強さ、ですね。
都会では、いくら人が多くても、お互いに目も合わさない。
利賀では、本当に人と人が相手を慮りながら語らい、協力し合って暮らしています。
村人総出の冠婚葬祭や祭り、年中行事に最初は驚きましたが、普段「まばら」に暮らしているからこそ、ここぞという時に「寄る」ということをとても大事にしている、そこが利賀の魅力です。

仕事のこと

—林業について聞かせてください。

当初は林業のことが何もわからない状態で、地元のじいちゃんたちにイチから教わりました。
「あの山の木は切ったらいけない」とか、「ここは昔、ミズナラの林だった」とか、技術書には載っていないことをたくさん知っています。
ところが、それらを受け継ぐ人がいない。
当時から利賀の林業は、高齢化率が高く、次の世代に担い手がいませんでした。
緑の雇用制度などで、新規就業者は増えましたが、離職率も多い。
その多くは「林業に対するイメージと実際とのミスマッチ」とか「体力的に続けられない」とかいった理由でした。

それから、林業は情報発信が少なく、子どもや若者が林業に触れ、体験する機会が少ないと感じています。
そして人工林には不適な地域では、木材単価も低迷、素材生産中心の林業経営に限界がきているという点も、今後解消しなければならない課題。
これらをひとつずつ検証したくて、『一般社団法人moribio森の暮らし研究所』を立ち上げました。

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これからの目標や希望

—今後の目標を聞かせてください。

もっともっと、森を活用していきたいと思っています。
永く活用できるよう、知恵をしぼり最大限の工夫と努力も必要です。
利賀の山は、傾斜と雪の重みで根元曲がりの木が多く、建築資材・用材の産地としては成績が悪い。
でもそこには、多様な植物が自生しています。
今後は、地域にある森林資源を上手に活用しながら暮らしていける仕組みづくりが必要だと考えます。

たとえば、利賀の山に自生するクロモジやタムシバといった、有用成分のある樹の活用です。
モリビオでは、クロモジの枝を刻んだクロモジ茶を商品化や、薬用植物の利用にも取り組んでいます。
7月には「瞑想の郷」で開催されたアロマヨガの催しで、利賀で採取・蒸留したクロモジオイルを活用しました。
利賀の山には、まだまだたくさんの可能性があると思います。